負債1000億円超・全東信が破産
20年続いたとされる粉飾決算から経理が学ぶこと
「大企業の不正」で終わらせない。巻き込まれるリスクと今できる備え
報道されている内容を整理すると、次のとおりです。
- 株式会社全東信(大阪市中央区)はクレジットカード決済代行会社。資本金は45億円
- 2026年7月6日、大阪地裁に準自己破産(会社自身ではなく取締役などが申し立てる破産)を申請し、同日破産手続き開始決定
- 負債総額は1000億円超。金融機関からの借入金が中心
- 実態は600億円超の債務超過(資産をすべて売っても借金を返しきれない状態)のおそれ
- 業績悪化を隠すため、多額の預金を架空計上する粉飾決算を少なくとも20年前から続けていた疑い
- 売上金が未入金のままの加盟店は2万店超。夜間営業の飲食店を中心に影響が広がっている
【9月6日更新】金融機関側の被害も、時間の経過とともに大きくなっています。読売新聞は2026年7月時点で、少なくとも21の地域金融機関で計465億円超が回収不能となる見込みと報じていましたが、同紙の9月3日の報道では、少なくとも34の地域金融機関・計539億円超の融資について回収不能や遅延のおそれが生じているとされています。また日本経済新聞によると、破産時に債権者となった金融機関は63にのぼります。粉飾された決算書をもとに融資を続けていた金融機関側の損失も、加盟店の未入金と並んで極めて大きいことが分かってきました。「決算書は絶対ではない」という本記事の教訓を、プロである金融機関ですら避けられなかったことになります。
なお、金融庁は各地の財務局と連携し、地域金融機関を中心に与信管理(お金を貸す際の審査や管理)が適切だったかの調査を進めていると報じられています(読売新聞2026年9月3日)。
決済代行会社とは、お店に代わってクレジットカード会社との契約や売上金の受け渡しを仲介する会社のことです。つまりお客様が支払ったカード決済のお金は、一度この会社を経由してからお店に振り込まれます。その「経由地」が破産したため、お店側は「売上はあるのにお金が入ってこない」状態に陥っているわけです。
粉飾決算とは、会社の成績表である決算書の数字を、実態より良く見せかけることです。代表的な手口には次のようなものがあります。
- 売上の水増し: 架空の取引をでっち上げたり、翌期の売上を前倒しで計上する
- 費用・負債隠し: 本当は発生している費用や借金を帳簿に載せない
- 資産の架空計上: 存在しない在庫や預金を「あることに」して資産を膨らませる
全東信で報じられているのは3つ目、「預金の架空計上」です。実際には存在しないお金を帳簿の上では「預金がある」ことにして、業績悪化と債務超過を隠していたとされています。
【7月9日追記】東京商工リサーチの調査報道によると、粉飾の内訳として、預金残高の水増し約170億円、架空債権約154億円、実質的に無価値な営業権の過大計上約88億円などが挙げられています。帳簿上は約25億円の資産超過に見せかけていたものの、実質は約605億円の債務超過だったとされています。
では、なぜ20年も見抜かれなかったのでしょうか。「監査法人のチェックはなかったのか?」と疑問に思った方は鋭いです。会計監査人(監査法人や公認会計士)による監査は、実は上場企業だけの義務ではありません。資本金5億円以上または負債200億円以上の会社は、会社法上の「大会社」として非上場でも会計監査人の設置が義務付けられています。資本金45億円の全東信は、本来この監査を受けるべき会社にあたります。
それでも見抜かれなかったのはなぜか。実際に監査が行われていたのか、行われていたならなぜ機能しなかったのか——担当監査法人の有無や名前を含め、この記事の時点で確認できる公表情報は見当たらず、今後の調査報道が待たれます。なお一般論として、非上場の会社には、義務があるのに会計監査人を置かないまま放置されているケースが相当数あることが以前から指摘されています(違反しても過料という軽い制裁にとどまるためです)。上場企業と違って監査の有無が外から見えにくく、銀行も取引先も「提出された決算書」を前提に判断するしかない——そこが偽られていると、外部から見抜くのは非常に困難なのです。
2026年に入って、粉飾決算とは別の角度からの報道が出ています。それが2017年に行われた「関係会社からの営業権の買収」です。ここは経理担当者にとって学びの多い部分なので、少し詳しく見ていきます。
信用調査会社の東京商工リサーチと読売新聞が、それぞれ独自の取材で次の内容を報じています。金額に差があるため、両方の数字を並べます。
- 全東信が、関係会社である株式会社東信クレジットサービス(大阪市)の営業権を買収した。時期は2017年12月
- 買収の原資は金融機関からの借入だった(読売新聞)
- 買収額は、読売新聞が約180億円、東京商工リサーチが減価償却資産の明細をもとに取得価額151億2,000万円と報じている
- 両社の代表者は同一人物。東信クレジットサービスの株式も全東信の代表者が保有していた(東京商工リサーチ)
- 売却側の東信クレジットサービスは、その売却益を原資に代表者へ多額の配当を行ったとされる
配当の部分は、両社とも伝聞の形で報じています。東京商工リサーチの記事にはこう書かれています。
出典: 東京商工リサーチ TSRデータインサイト「全東信の粉飾、資本と営業権と不動産から読み解く」(2026年7月10日)
読売新聞も同じ趣旨を報じたうえで、金融機関側の反応を伝えています。同紙によると、ある大手金融機関は代表個人への多額の資金移動に疑問を持って全東信に確認したものの、十分な回答が得られなかったとしています。また別の金融機関は、買収価格が当時の東信クレジットサービスの純資産(5,000万円程度)に対して高すぎる点に不信感を持ったとされ、これを機に主力銀行など複数行が融資から撤退したと報じられています。
ここが経理として押さえたいポイントです。営業権(のれん)とは、ブランドや取引先とのつながりなど、貸借対照表には載らない価値に対して支払う金額のことです。買収額が相手の純資産を上回ること自体は、おかしなことではありません。将来の稼ぐ力を評価して上乗せするのは通常の取引です。
問題はその差額の大きさと、取引の相手が誰かという点です。東京商工リサーチによると、東信クレジットサービスの2019年3月期の資産合計は5,683万円で、最終損益も数百万円の赤字でした。純資産5,000万円程度・赤字の会社に対して100億円を超える対価が支払われ、しかも売り手と買い手の代表者・株主が同一人物であれば、「その金額に根拠があるのか」を外部が疑うのは当然の反応です。
「代表者が株式を持っていた」という話の裏づけとして、東京商工リサーチは「同族会社等の判定に関する明細書」を入手したと書いています。これは法人税の申告書に添付する別表の一つで、その会社が同族会社にあたるかどうかを判定するための書類です。同社によれば、2025年3月期のこの明細書で、代表者が発行済株式6万1,800株のすべてを保有し同族判定となっており、翌2026年3月期も同様だったとされています。
経理の仕事をしていると毎年つくる書類ですが、こうして見ると「誰がこの会社を支配しているか」を公的に記録している書類だということが分かります。同族会社に該当すると、役員給与の扱いや行為計算の否認など、法人税法上の特別な規定がかかる場面が出てきます。日々の申告業務では作業になりがちな別表ですが、意味を知っておくと見え方が変わる一枚です。
今回の破産で実害を受けているのは、全東信を通じてカード決済を導入していた加盟店です。お客様はすでに支払いを済ませているのに、その売上金が経由地で止まったまま入金されない——キャッシュフロー(手元のお金の流れ)への直撃です。飲食店のように日銭でやりくりする商売ほど、ダメージは深刻になります。
経理の実務としては、次の2点を押さえておきましょう。
- カード売上は、入金前でも売上として計上済みのはず。入金されない分は「売掛金(または未収入金)が回収できない」状態として残る
- 回収の見込みがなくなった場合、要件を満たせば貸倒損失(回収不能になった債権を損失として処理すること)にできる可能性があるが、破産手続きの進み方によって処理できる時期・金額が変わる
「粉飾なんて大企業の話」と思われがちですが、実は中小企業の粉飾は珍しくありません。しかも多くは、悪意の自覚がないまま始まります。よくあるのは次のようなパターンです。
- 銀行融資の審査前に、在庫を実際より多めに計上して資産を膨らませる
- 赤字を避けるため、翌期の売上を今期に前倒しして計上する
- 今期の経費をあえて帳簿に載せず、翌期に回して利益を多く見せる
「1回だけ」「来期に業績が戻れば帳尻が合う」——そう思って始めた化粧は、POINT 02で見たとおり雪だるま式に膨らみます。しかも粉飾した決算書で融資を受けると、詐欺罪などに問われるリスクすらあります。良く見せた決算書は、その場をしのぐ代わりに、会社の本当の状態を経営者自身にも見えなくしてしまうのです。
→ 負債1000億円超・影響2万店超
→ 非上場は外部監査なしで発覚しにくい
→ 売却益は代表者への配当に
→ 契約先と入金サイクルの把握を
→ 月次の正確な数字が最大の防御
→ 価格の妥当性は後から必ず問われる
今回の事件が教えてくれるのは、「立派な決算書」と「会社の実態」は別物だということ。取引先を見るときは決算書だけを鵜呑みにしない、そして自分の会社では化粧をしなくて済むように毎月の数字と向き合う。この2つが、経理にできる一番確実な備えです。
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お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします 説得力や信頼性が高まる知識をあなたに。- 東京商工リサーチ TSRデータインサイト「全東信の粉飾、資本と営業権と不動産から読み解く」(2026年7月10日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203046_1527.html - 読売新聞オンライン「『全東信』で2017年に180億円の不透明な資金移動…主力銀行など融資撤退、資金繰り悪化の契機に」(2026年9月3日)
- 日本経済新聞「全東信破産、63金融機関が債権者 最大は近畿産業信用組合の219億円」(2026年7月10日)
- 帝国データバンク 倒産速報「株式会社全東信」(2026年7月6日)
https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5242/
本記事は上記の報道内容を参照し、経理実務の観点から筆者が再構成したものです。引用部分は該当箇所に出典を明記しています。

