居酒屋の倒産が上半期初の100件超、焼肉店も2年連続最多
なぜ増えた? 飲食店を守る資金繰りチェックと支援策
物価高・人手不足の板挟み。危険サインの見つけ方と、苦しくなる前に使える公的支援【2026年7月12日時点】
まず、東京商工リサーチが2026年7月に発表した上半期(1〜6月)の調査結果を整理します。
- 飲食業全体: 509件(前年同期比5.3%増)。上半期として1997年以降の30年間で初めて500件台に達し、過去最多を更新
- 居酒屋(酒場・ビヤホール): 118件。上半期として初めて100件を超え、過去最多を更新(7月11日発表)
- 焼肉店: 26件(前年同期比8.3%増)。2年連続で最多件数を更新(7月2日発表)
- 飲食業全体のうち、食材価格や水道光熱費の高騰による「物価高」関連の倒産は86件(53.5%増)で前年の約1.5倍、「人手不足」関連の倒産は36件(125.0%増)で約2.2倍に急増
注目したいのは倒産したお店の「顔ぶれ」です。居酒屋の倒産118件のうち従業員10名未満の小規模店が97.4%、原因は「販売(売上)不振」が88.9%。焼肉店も26件すべてが負債5,000万円未満で、従業員10名未満・資本金1,000万円未満がそれぞれ96.1%を占めました。つまり今回の「過去最多」の中身は、大きな会社の派手な破綻ではなく、家族経営や数人で回してきた小さなお店が、売上減とコスト増に静かに力尽きているケースの積み重ねだということです。
倒産が増えた理由は、業態ごとに少しずつ違いますが、構造は共通しています。
- 居酒屋: ビール・ウイスキー・日本酒など酒類の値上げに加え、食材費・人件費・家賃が上昇。一方でお客さまの節約志向は強く、宴会・飲み放題の値上げは客離れに直結しやすい
- 焼肉店: 輸入牛肉など食肉価格の高騰が直撃。ガス代・電気代(焼肉店は特に光熱費がかさむ業態です)と人件費の上昇も重なった
- 共通: 深刻な人手不足で、募集をかけても人が集まらない・時給を上げざるを得ない。営業時間を縮めれば売上も減る
ここで用語を整理しておきます。「物価高倒産」とは、仕入価格や光熱費などの上昇分を売価に転嫁できず、収益が悪化して倒産に至るケースを指します。コスト上昇分を販売価格に上乗せすることを「価格転嫁(かかくてんか)」と呼びますが、飲食店は「メニューの値段を上げるとお客さまが減るのでは」という不安から、転嫁が最も難しい業種のひとつと言われます。「人手不足倒産」は、求人難・人件費高騰・従業員の退職などが引き金になる倒産で、こちらも近年増加傾向にあります。
つまり「売上不振」と一言で言っても、実際には「コストは待ったなしで上がるのに、売価と人繰りの調整が追いつかない」という時間差の問題です。だからこそ、数字の変化に早く気づいて、値上げ・メニュー構成・営業時間の見直しといった手を「体力があるうちに」打てるかどうかが分かれ目になります。
「うちは大丈夫だろうか」という不安は、感覚ではなく数字で確かめるのが一番です。飲食店の経理でまず見るべき数字は、次の3つです。
- ① FL比率(エフエルひりつ): 食材費(Food)と人件費(Labor)の合計が売上高に占める割合。飲食店では一般に60%以内が目安と言われます。65%を超える状態が続くと、家賃や光熱費を払った後にほとんど利益が残りません
- ② 現預金の残高: 手元のお金が月商(1ヶ月分の売上)の何ヶ月分あるか。1ヶ月分を切ると、ひとつの想定外(設備の故障・急な売上減)で資金繰りが詰まりかねません。まずは月商1〜2ヶ月分の確保を意識します
- ③ 月次の売上・粗利の前年比較: 「今月の売上が前年同月と比べてどうか」「粗利率(売上から食材費を引いた利益の割合)が下がっていないか」を毎月見る。粗利率の低下は、仕入値上がりを転嫁できていないサインです
ポイントは、これを年に1回の確定申告のときではなく、毎月見ることです。倒産統計で「販売不振」に分類されたお店も、ある日突然売れなくなったわけではなく、多くは数字の悪化が数ヶ月〜数年単位で進行していたはずです。月次で見ていれば、FL比率が悪化した月に「食材のロスが増えていないか」「値上げすべきメニューはどれか」と、原因を小さいうちに潰せます。
資金繰りに不安を感じたら、手元のお金が尽きる前に動くことがなにより重要です。公的な支援は「まだ倒れていない、早めに相談に来た事業者」ほど選択肢が多く用意されています。
- 日本政策金融公庫の融資: 国の政策金融機関で、小規模な飲食店の運転資金にも対応。売上減少など経営環境の変化に対応する貸付制度もあります。金利や要件は状況で変わるため、まず支店や事業資金相談ダイヤルへ
- 既存借入の条件変更(リスケジュール): すでに借入がある場合、「追加で借りる」前に「毎月の返済額を一時的に軽くする」相談ができます。取引金融機関や公庫の窓口へ
- よろず支援拠点・商工会議所: 各都道府県にある国の無料経営相談所。値上げの進め方やメニュー戦略など、お金を借りる以外の経営改善も無料で相談できます
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済): 取引先の倒産に備える国の共済制度。掛金は損金・必要経費に算入できるケースが多く、万一の際は無利子の貸付が受けられます(加入は倒産が起きる前に)
なお、飲食店にとって「取引先の倒産」は他人事ではありません。2026年7月には、飲食店を中心に約2万店と契約していたクレジットカード決済代行会社・全東信の破産で、多くのお店の売上金が未入金になる事態も起きています。仕入先や決済代行など、自分のお店の「お金の通り道」にある会社の異変に早く気づくことも資金繰りを守る一部です。詳しくは「全東信破産で政府が資金繰り支援を発表」で解説しています。
→ いずれも過去最多。9割超が小規模店
→ コスト増を売価に転嫁しきれない
→ FL比率・現預金・月次前年比較
→ 公庫・リスケ・無料相談・共済
倒産統計の数字は、裏を返せば「同じ環境でも続いているお店が大多数」ということでもあります。違いを生むのは、①毎月数字を見る、②値上げやメニューの手を早く打つ、③苦しくなる前に相談する——この3つの早さです。
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