インボイス制度をわかりやすく解説
2割特例の終了と控除70%への切り替えも総まとめ
制度の基本から令和8年度税制改正の変更点まで【2026年7月12日時点】
インボイス(適格請求書)とは、「売り手が買い手に、正確な消費税率と消費税額を伝えるための請求書・レシート」のことです。消費税には10%と軽減税率8%の複数の税率があるため、「この取引はどの税率で、消費税はいくらか」を書類ではっきり示す仕組みとして導入されました。
買い手側から見ると、消費税の仕入税額控除(後述)を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。ここが制度の肝になります。
- 制度は2023年(令和5年)10月1日に開始済み。すでに実務として定着しつつある段階
- インボイスを発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけ。登録すると「T+13桁」の登録番号が通知される
- 登録は任意。ただし登録すると免税事業者でも課税事業者になる(=消費税の申告・納税が必要になる)
- 登録申請は今からでも可能。免税事業者は申請書に「登録希望日」(提出日から15日以後の日)を書けば、その日から登録を受けられる
「インボイス」と聞くと特別な様式を想像しがちですが、決まったフォーマットはありません。次の6項目が書かれていれば、請求書でも領収書でもレシートでもインボイスとして有効です。
- 発行者の氏名または名称と登録番号(T+13桁の番号。ここが従来との一番の違い)
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目にはその旨を明記)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名または名称(相手の名前)
また、不特定多数のお客さんと取引する小売業・飲食店業・タクシー業などは、簡易版の「適格簡易請求書」でOKです。相手の氏名(6番目)は省略でき、「適用税率」と「税率ごとの消費税額等」はどちらか一方の記載で足ります。スーパーやコンビニのレシートがそのままインボイスになっているのはこのためです。
インボイス制度でもっとも影響が大きいのがここです。買い手側は、インボイスを発行できない事業者(免税事業者など)からの仕入れについて、原則として仕入税額控除が受けられません。そのままでは買い手の消費税負担が増えるため、「値下げを求められる」「取引を見直される」といった形で免税事業者側にも影響が及びます。
ただし、急激な変化を避けるための経過措置があり、免税事業者からの仕入れでも一定割合は控除できます。この経過措置のスケジュールが、令和8年度税制改正で大きく見直されました。
- 2023年10月1日〜2026年9月30日: 80%控除(いまはここ。残り3カ月弱)
- 2026年10月1日〜2028年9月30日: 70%控除
- 2028年10月1日〜2030年9月30日: 50%控除
- 2030年10月1日〜2031年9月30日: 30%控除
- 2031年10月1日以降: 控除なし(0%)
改正前は「2026年10月から50%、2029年10月に終了」という予定でしたが、段階が細かくなり、終了時期も2031年9月末へ2年延長されました。「2026年10月にいきなり50%へ」ではなく70%で済むようになった一方、控除が段階的に縮小していく方向自体は変わっていません。
制度開始時に「支援措置」として用意された特例は、期限を迎えるもの・形を変えて続くもの・恒久化されているものに分かれてきました。2026年時点の状況を整理します。
- 2割特例(売上税額の2割だけ納税): 免税事業者からインボイス登録して課税事業者になった人向け。事前届出は不要で、申告時に有利なら選ぶだけ。個人事業主は令和8年分(2026年分)の申告、法人は2026年9月30日を含む事業年度の申告で終了します
- 3割特例(売上税額の3割を納税)【新設】: 令和8年度税制改正で創設。2割特例の後継として、令和9年分・令和10年分(2027年・2028年分)に適用。ただし対象は個人事業主のみで、法人は使えません
- 少額特例(税込1万円未満の仕入れ): インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除OK。対象は基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者。2029年(令和11年)9月30日まで
- 少額な返還インボイスの交付免除: 税込1万円未満の値引き・返品(振込手数料分の値引きなど)はインボイス交付が不要。こちらは期限なし・全事業者が対象
特に大きいのは2割特例の終了です。個人事業主は令和9年分(2027年分)から3割特例に切り替わるため単純計算で納税額が1.5倍になり、法人は令和8年10月以後に始まる事業年度から特例なしで、原則課税か簡易課税(後述)で計算することになります。簡易課税を使うには原則として課税期間が始まる前の届出が必要なので、「気づいたら選べなかった」とならないよう、決算期・申告期の前に一度シミュレーションしておくのがおすすめです。
最後に、記事中に出てきた用語を初心者向けにまとめます。「言葉が分からなくなったらここに戻る」という使い方をしてください。
- 課税事業者: 消費税を申告・納税する義務がある事業者。基準期間(2年前・2期前)の課税売上高が1,000万円超の場合などに該当するほか、インボイス登録をした場合も課税事業者になります(国税庁 No.6501 納税義務の免除)
- 免税事業者: 上記に該当せず、消費税の納税義務が免除されている事業者。開業したての個人事業主や小規模な事業者の多くがこちら
- 仕入税額控除: 納める消費税を「売上で預かった消費税 − 仕入・経費で支払った消費税」で計算するときの、後者を差し引く仕組み。この差し引きの条件がインボイスの保存です。なお給料や保険料のようにそもそも消費税がかからない支払いは対象外(国税庁 No.6451)
- 原則課税: 上の式のとおり、実際の売上と仕入から消費税を計算する原則的な方法
- 簡易課税: 基準期間の課税売上高5,000万円以下の事業者が選べる簡便な方法。売上の消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算するため、仕入れ側のインボイス管理が原則不要になるのが利点。事前の届出が必要です(国税庁 No.6505 簡易課税制度)
→ 登録は任意。今からでも申請可
→ 登録番号など6項目が揃えばOK
→ 経過措置は80→70→50→30→0%
→ 個人は3割特例へ、法人は対象外
インボイス制度は「導入するかどうか」の段階を過ぎ、「特例が縮小していく中でどう対応するか」を考える段階に入りました。特に今年は、9月30日の80%控除の期限と、2割特例最後の年という2つの節目が重なります。免税事業者の方も課税事業者の方も、秋までに一度、自分の取引と納税額を棚卸ししておきましょう。
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