雑損控除と必要経費|個人事業主の災害時の確定申告

雑損控除と必要経費|個人事業主の災害時の確定申告 特別業務
個人事業主・フリーランスの災害対応

災害で被害を受けたときの確定申告|事業用と自宅で処理が違います

必要経費・雑損控除・災害減免法の使い分け|個人向け
地震や台風で被害を受けたとき、個人事業主の方が最初につまずくのが「仕事で使っているもの」と「自宅のもの」で税金の扱いがまったく違うという点です。

仕事用のパソコンが壊れたら必要経費。自宅の家財が流されたら雑損控除。同じ災害の被害でも、入り口が別々に用意されています。ここを取り違えると、使えるはずの制度を丸ごと逃すことになります。

この記事では、個人事業主・フリーランスの方が災害で被害を受けたときの確定申告を、判断の順番に沿って整理します。法人の方は制度が別体系になるため、記事末尾の関連記事をご覧ください。
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最初にやること:事業用と生活用を分ける
この切り分けを間違えると、その後がすべてずれる

個人事業主の災害対応で、いちばん最初に決めるのがこれです。被害を受けたものを2つに仕分けてください。

  • 事業用の資産(商品・在庫・仕事用の設備や車両・店舗など)
    事業所得等の必要経費に算入する
  • 生活用の資産(自宅・家財・生活用の車など)
    雑損控除または災害減免法を使う

国税庁も、災害により事業用資産や棚卸資産などに被害を受けた個人事業者は、その損失の金額を事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入することができるとしています。一方で事業用の資産は雑損控除の対象にはなりません。同じ損失を両方で使うことはできないため、まずどちらの入り口に乗せるのかを整理することが出発点になります。

自宅兼事務所など、兼用しているものは要相談
自宅兼事務所や、仕事とプライベート兼用の車のように家事按分して経費にしているものは、事業用と生活用のどちらとして扱うかがそのままでは決まりません。按分の状況や資産の実態によって判断が分かれる部分です。
金額が大きくなりやすい箇所でもあるため、自己判断せず税理士または所轄税務署にご確認ください。あわせて、日頃の按分割合の根拠となる資料を残しておいてください。
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事業用の資産が壊れたとき
必要経費に算入し、赤字は繰り越す

商品や在庫、仕事用の設備が被害を受けた場合、その損失は必要経費になります。修理した場合の費用も同様です。国税庁は、災害により損壊した事業用資産などの修復費用は、その理由のいかんを問わず必要経費に算入できるとしています。

問題は、損失が大きくてその年が赤字になった場合です。この場合は純損失として扱われ、2つの選択肢があります。

赤字になった場合の2つの道
  • 繰戻し還付
    純損失の金額を前年に繰り戻して、還付を請求する(前年に所得があり納税していた場合)
  • 繰越控除
    翌年以後3年間に繰り越して、各年分の総所得金額等から控除する
✓ 特定非常災害なら5年に延びる
通常の繰越は3年間ですが、特定非常災害により事業用資産等について生じた損失のうち、被災事業用資産の損失の金額は、翌年以後5年間繰り越すことができます。大規模な災害では繰越期間が延長される場合があるため、自分の被災した災害が特定非常災害に指定されているかを確認してください。

資金繰りが厳しいときは、手元にお金が戻ってくる繰戻し還付を優先的に検討することになります。ただし前年に納税していることが前提です。

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自宅・家財が被害を受けたとき:雑損控除
対象になる資産・ならない資産がはっきり決まっている

自宅や家財など、生活に使っている資産が被害を受けた場合は雑損控除です。まず対象になる資産の条件を確認してください。

資産の所有者の条件
  • 納税者本人
  • 納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が58万円以下の方
「48万円」と書かれた情報に注意
この基準額は令和7年12月1日に施行され、令和7年分から適用される金額で、58万円です。それ以前は令和2年分から令和6年分が48万円、令和元年分以前は38万円でした。
改正前の48万円と書かれた解説記事がまだ多く残っているため、古い数字で判定しないよう気をつけてください。過年度分をさかのぼって申告・修正する場合は、その年分の基準額で判定する必要があります。

次に、雑損控除の対象にならないものです。ここは明確に決まっています。

対象にならない資産
  • 棚卸資産
  • 事業用固定資産等(こちらは必要経費のほうで処理します)
  • 生活に通常必要でない資産

3つ目の「生活に通常必要でない資産」は、具体的には次のようなものです。

  • 別荘など趣味・娯楽・保養または鑑賞の目的で保有する不動産
  • 平成26年4月1日以後は、同じ目的で保有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権など)も含まれます
  • 貴金属(製品)や書画、骨董など1個または1組の価額が30万円超のもの

そして、損害の原因も限定されています。何でもよいわけではありません。

対象になる原因
  • 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
  • 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
  • 害虫などの生物による異常な災害
  • 盗難横領
詐欺・恐喝は対象外
盗難と横領は対象ですが、詐欺や恐喝の場合には、雑損控除は受けられません。混同しやすい部分です。
失火は対象、自己の放火は対象外
災害減免法のほうでは、災害の範囲について「震災、風水害等の天災のほか、火災等の人為的災害で自己の意思によらないもの」を含むと定義されています。したがって失火は含まれますが、自己の放火は含まれません。
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雑損控除はいくらになるか
2つの式を計算して、多いほうを使う

雑損控除の金額は、次の2つを計算していずれか多いほうを採用します。

  • 式1:(損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額) − 総所得金額等 × 10%
  • 式2:(災害関連支出の金額 − 保険金等の額) − 5万円

用語がまぎらわしいので、原典の定義を整理しておきます。

  • 損害金額
    損害を受けた時の直前における時価を基にして計算した損害の額
  • 災害等関連支出の金額
    ①災害により滅失した住宅・家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額など
    ②盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のための支出など
  • 災害関連支出の金額(式2で使うもの)
    上記①だけを指します。「等」の有無で範囲が違う点に注意してください
保険金は「差し引く順番」が決まっている
保険金等の額は、まず損害金額から差し引き、保険金等の額が損害金額を超える場合に、災害(等)関連支出の金額から差し引くという順序です。任意にどちらから引いてもよいわけではありません。
なお保険金が確定するまで金額が動くため、申告前に受取額を確認してください。
✓ 損害額には「合理的な計算方法」が用意されている
住宅や家財の損害額を1点ずつ積み上げるのは現実的ではありません。国税庁は住宅・家財・車両の損失額について「合理的な計算方法」を示しており、これで計算できます。
また、損害を受けた資産が減価償却資産である場合には、取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として損害金額を計算することもできます。

式2は実費だけで計算する式で、所得が高くて式1では控除額が小さくなってしまう場合に効いてきます。

領収書の添付・提示が必要
確定申告書に雑損控除に関する事項を記載するとともに、災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収を証する書類を添付するか、提示する必要があります。取壊し・除去を業者に依頼したときの領収書は必ず保管してください。
✓ 雑損控除は他の所得控除より先に引く
雑損控除は、他の所得控除に先だって控除することになっています。繰越を有利に使えるかどうかに関わる順序です。
✓ 控除しきれない分は繰り越せる
雑損控除の金額がその年の所得金額を上回って引ききれない場合、翌年以後3年間繰り越すことができます。東日本大震災、または令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害による損失については5年間です。
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もう一つの選択肢:災害減免法
雑損控除と、有利なほうを選べる

住宅や家財に大きな被害を受けた場合、雑損控除ではなく災害減免法を選ぶこともできます。こちらは所得控除ではなく、所得税そのものを軽減・免除する仕組みです。

災害減免法が使える条件
  • 災害により受けた住宅・家財の損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)が、その時価の2分の1以上であること
  • 災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であること
  • その災害による損失額について雑損控除の適用を受けないこと

条件を満たす場合、次のように軽減・免除されます。

  • 所得金額の合計額500万円以下 → 所得税の額の全額
  • 500万円を超え750万円以下 → 所得税の額の2分の1
  • 750万円を超え1,000万円以下 → 所得税の額の4分の1
「所得金額の合計額」は雑損控除の「総所得金額等」とは別物
ここでいう所得金額の合計額は、所得税法22条(課税標準)に規定する総所得金額に、分離課税の譲渡所得、上場株式等に係る配当所得等、先物取引に係る雑所得等、山林所得金額、退職所得金額などを合計した厳密な概念です(各種の繰越控除後の金額)。
雑損控除の計算で使う「総所得金額等」とは定義が異なります。「だいたいの年収」で判定せず、申告書の数字で確認してください。
✓ 「住宅」「家財」の範囲にも定義がある
住宅は「自己または扶養親族が常時起居する家屋」を指します。生活の本拠である必要はなく、2か所以上に常時起居していればそのいずれも住宅にあたります。附属する倉庫・物置等も含みます。一方、常時起居しない別荘のようなものは住宅としません
家財は日常生活に通常必要な家具、じゅう器、衣服、書籍その他の家庭用動産で、書画・骨とう・娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まれません
どちらか一方しか選べない
雑損控除と災害減免法は併用できません。納税者の選択により、どちらか有利なほうを選ぶ形になります。
ざっくりした目安として、損害が大きく所得が低めなら災害減免法損害が長期にわたり繰越を使いたいなら雑損控除が有利になりやすい傾向があります。ただし雑損控除には3年(または5年)の繰越がある一方、災害減免法にはその年限りという違いがあるため、実際には両方を試算して比べる必要があります。
手続きと、あとからの選択変更

災害減免法の適用を受けるには、確定申告書等に適用を受ける旨、被害の状況および損害金額を記載して、納税地の所轄税務署長に提出します。

  • 期限後申告でも適用される
    確定申告書の提出により軽減・免除を受ける場合、その確定申告書は期限後申告であっても適用されます
  • あとから選択できる
    確定申告書で軽減・免除の適用を受けていなかったときでも、修正申告書または更正の請求書を提出する際に適用を受ける選択が可能です
  • 雑損控除から乗り換えられる
    確定申告書で雑損控除を選択していても、修正申告書または更正の請求書を提出する際に、雑損控除に替えて災害減免法の適用を受ける選択が可能です
✓ 慌てて申告しても、あとで見直せる
被災直後は損害額も保険金も確定しないまま申告期限が来ることがあります。期限後申告でも適用され、あとから選択も変更できる——この2点を知っておくと、判断を先送りにせず動けます。ただし更正の請求には期間の制限があるため、放置はしないでください。
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申告を待たずに使える手続き
目の前の資金繰りを楽にする制度

確定申告は先の話でも、被災直後の資金繰りは待ってくれません。申告前に使える手続きがあります。

  • 予定納税の減額申請
    被災してその年の見積所得金額が減少した場合、予定納税の減額を申請できます
  • 源泉所得税の徴収猶予
    給与所得もある方は、源泉所得税の徴収猶予や還付を受けられる場合があります
  • 申告・納付期限の延長
    災害により申告・納付が困難な場合、期限延長の申し出ができます
  • 納税の猶予
    災害により納税が一時的に困難な場合、納税の猶予を受けられます
年末調整されないケースに注意
給与所得者が災害減免法により源泉所得税および復興特別所得税の徴収猶予または還付を受けた場合は年末調整されません。確定申告により精算する必要があるため、忘れないでください。
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帳簿や領収書を失ってしまったら
できる範囲で合理的に復元する

水害や火災では、帳簿や領収書そのものが失われることがあります。この場合、国税庁は「可能な範囲で合理的な方法により申告書等を作成する」としています。手段は次のとおりです。

  • 取引の相手先に照会する(請求書・納品書の再発行を依頼)
  • 金融機関に照会する(通帳や取引履歴から入出金をたどる)
  • 税務署の申告書等閲覧サービスを使う(過去の申告書控えを失った場合)
✓ 災害時はコピーを交付してもらえる
申告書等閲覧サービスは通常、閲覧のみでコピーの交付は行われません。ただし災害で書類を消失した場合は、り災証明書などにより災害の事実を確認したうえで、申告書等の作成に必要な部分についてコピーの交付を行っているとされています。

また、課税事業者として消費税を申告している方は、帳簿・請求書の保存が仕入税額控除の要件になっています。ここにも災害時の救済がありますが、災害で保存できなかったことを事業者側が証明する必要があるという条件つきです。詳しくは災害で会社の資産が壊れたときの経理・税務処理(法人向け)で解説しています。

片づける前に写真を撮る
撤去してしまうと、被害の大きさを証明する手段がなくなります。り災証明書は雑損控除でも災害減免法でも起点になる書類です。復旧作業を始める前に、被害状況の写真を残し、り災証明書の申請手順を確認してください。
まとめ:入り口を間違えないことがすべて
POINT 01
まず仕分ける
→ 事業用は必要経費、生活用は雑損控除
POINT 02
事業の赤字は繰越
→ 3年、特定非常災害なら5年
POINT 03
雑損控除は2式を比較
→ 10%控除と、実費−5万円
POINT 04
災害減免法と選択
→ 併用不可。試算して有利なほうを
POINT 05
申告を待たずに動ける
→ 予定納税の減額・納税の猶予
POINT 06
証明書類が起点
→ 片づける前に写真とり災証明書

個人事業主の災害対応は、「事業用か生活用か」の入り口を間違えると、その先の制度がすべて噛み合わなくなります。まず被害を受けたものを仕分けることから始めてください。

そのうえで、雑損控除と災害減免法はどちらか有利なほうを選ぶ制度です。金額が大きい場合は自己判断せず、両方を試算したうえで税理士に相談することをおすすめします。

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この記事は、2026年7月時点の法令・国税庁の公表情報をもとに、経理実務・税理士事務所での勤務経験をふまえて個人事業主・フリーランス向けに一般的な内容を解説しています。主な根拠は、所得税法2条・62条・71条・71条の2・72条・87条・120条、所得税法施行令205条ほか、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(災害減免法)1条〜3条、国税通則法11条・同法施行令3条、およびタックスアンサーNo.1110・No.1902・No.8004・No.8017(いずれも令和7年4月1日現在法令等)です。
本文中の「総所得金額等が58万円以下」は令和7年12月1日施行・令和7年分から適用の金額です(令和2年分〜令和6年分は48万円、令和元年分以前は38万円)。過年度分については、施行日前の適用関係を国税庁「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」でご確認ください。
雑損控除と災害減免法のどちらが有利かは個々の所得や損害の状況によって異なり、また災害の規模によっては個別の立法措置や告示が行われる場合があります。実際の申告にあたっては、必ず最新の国税庁の公表情報を確認のうえ、税理士にご相談ください。
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