災害で被害を受けたときの確定申告|事業用と自宅で処理が違います
仕事用のパソコンが壊れたら必要経費。自宅の家財が流されたら雑損控除。同じ災害の被害でも、入り口が別々に用意されています。ここを取り違えると、使えるはずの制度を丸ごと逃すことになります。
この記事では、個人事業主・フリーランスの方が災害で被害を受けたときの確定申告を、判断の順番に沿って整理します。法人の方は制度が別体系になるため、記事末尾の関連記事をご覧ください。
個人事業主の災害対応で、いちばん最初に決めるのがこれです。被害を受けたものを2つに仕分けてください。
- 事業用の資産(商品・在庫・仕事用の設備や車両・店舗など)
→ 事業所得等の必要経費に算入する - 生活用の資産(自宅・家財・生活用の車など)
→ 雑損控除または災害減免法を使う
国税庁も、災害により事業用資産や棚卸資産などに被害を受けた個人事業者は、その損失の金額を事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入することができるとしています。一方で事業用の資産は雑損控除の対象にはなりません。同じ損失を両方で使うことはできないため、まずどちらの入り口に乗せるのかを整理することが出発点になります。
金額が大きくなりやすい箇所でもあるため、自己判断せず税理士または所轄税務署にご確認ください。あわせて、日頃の按分割合の根拠となる資料を残しておいてください。
商品や在庫、仕事用の設備が被害を受けた場合、その損失は必要経費になります。修理した場合の費用も同様です。国税庁は、災害により損壊した事業用資産などの修復費用は、その理由のいかんを問わず必要経費に算入できるとしています。
問題は、損失が大きくてその年が赤字になった場合です。この場合は純損失として扱われ、2つの選択肢があります。
- 繰戻し還付
純損失の金額を前年に繰り戻して、還付を請求する(前年に所得があり納税していた場合) - 繰越控除
翌年以後3年間に繰り越して、各年分の総所得金額等から控除する
資金繰りが厳しいときは、手元にお金が戻ってくる繰戻し還付を優先的に検討することになります。ただし前年に納税していることが前提です。
自宅や家財など、生活に使っている資産が被害を受けた場合は雑損控除です。まず対象になる資産の条件を確認してください。
- 納税者本人
- 納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が58万円以下の方
改正前の48万円と書かれた解説記事がまだ多く残っているため、古い数字で判定しないよう気をつけてください。過年度分をさかのぼって申告・修正する場合は、その年分の基準額で判定する必要があります。
次に、雑損控除の対象にならないものです。ここは明確に決まっています。
- 棚卸資産
- 事業用固定資産等(こちらは必要経費のほうで処理します)
- 生活に通常必要でない資産
3つ目の「生活に通常必要でない資産」は、具体的には次のようなものです。
- 別荘など趣味・娯楽・保養または鑑賞の目的で保有する不動産
- 平成26年4月1日以後は、同じ目的で保有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権など)も含まれます
- 貴金属(製品)や書画、骨董など1個または1組の価額が30万円超のもの
そして、損害の原因も限定されています。何でもよいわけではありません。
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難、横領
雑損控除の金額は、次の2つを計算していずれか多いほうを採用します。
- 式1:(損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額) − 総所得金額等 × 10%
- 式2:(災害関連支出の金額 − 保険金等の額) − 5万円
用語がまぎらわしいので、原典の定義を整理しておきます。
- 損害金額
損害を受けた時の直前における時価を基にして計算した損害の額 - 災害等関連支出の金額
①災害により滅失した住宅・家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額など
②盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のための支出など - 災害関連支出の金額(式2で使うもの)
上記①だけを指します。「等」の有無で範囲が違う点に注意してください
なお保険金が確定するまで金額が動くため、申告前に受取額を確認してください。
また、損害を受けた資産が減価償却資産である場合には、取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として損害金額を計算することもできます。
式2は実費だけで計算する式で、所得が高くて式1では控除額が小さくなってしまう場合に効いてきます。
住宅や家財に大きな被害を受けた場合、雑損控除ではなく災害減免法を選ぶこともできます。こちらは所得控除ではなく、所得税そのものを軽減・免除する仕組みです。
- 災害により受けた住宅・家財の損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)が、その時価の2分の1以上であること
- 災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であること
- その災害による損失額について雑損控除の適用を受けないこと
条件を満たす場合、次のように軽減・免除されます。
- 所得金額の合計額500万円以下 → 所得税の額の全額
- 500万円を超え750万円以下 → 所得税の額の2分の1
- 750万円を超え1,000万円以下 → 所得税の額の4分の1
雑損控除の計算で使う「総所得金額等」とは定義が異なります。「だいたいの年収」で判定せず、申告書の数字で確認してください。
家財は日常生活に通常必要な家具、じゅう器、衣服、書籍その他の家庭用動産で、書画・骨とう・娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まれません。
ざっくりした目安として、損害が大きく所得が低めなら災害減免法、損害が長期にわたり繰越を使いたいなら雑損控除が有利になりやすい傾向があります。ただし雑損控除には3年(または5年)の繰越がある一方、災害減免法にはその年限りという違いがあるため、実際には両方を試算して比べる必要があります。
災害減免法の適用を受けるには、確定申告書等に適用を受ける旨、被害の状況および損害金額を記載して、納税地の所轄税務署長に提出します。
- 期限後申告でも適用される
確定申告書の提出により軽減・免除を受ける場合、その確定申告書は期限後申告であっても適用されます - あとから選択できる
確定申告書で軽減・免除の適用を受けていなかったときでも、修正申告書または更正の請求書を提出する際に適用を受ける選択が可能です - 雑損控除から乗り換えられる
確定申告書で雑損控除を選択していても、修正申告書または更正の請求書を提出する際に、雑損控除に替えて災害減免法の適用を受ける選択が可能です
確定申告は先の話でも、被災直後の資金繰りは待ってくれません。申告前に使える手続きがあります。
- 予定納税の減額申請
被災してその年の見積所得金額が減少した場合、予定納税の減額を申請できます - 源泉所得税の徴収猶予
給与所得もある方は、源泉所得税の徴収猶予や還付を受けられる場合があります - 申告・納付期限の延長
災害により申告・納付が困難な場合、期限延長の申し出ができます - 納税の猶予
災害により納税が一時的に困難な場合、納税の猶予を受けられます
水害や火災では、帳簿や領収書そのものが失われることがあります。この場合、国税庁は「可能な範囲で合理的な方法により申告書等を作成する」としています。手段は次のとおりです。
- 取引の相手先に照会する(請求書・納品書の再発行を依頼)
- 金融機関に照会する(通帳や取引履歴から入出金をたどる)
- 税務署の申告書等閲覧サービスを使う(過去の申告書控えを失った場合)
また、課税事業者として消費税を申告している方は、帳簿・請求書の保存が仕入税額控除の要件になっています。ここにも災害時の救済がありますが、災害で保存できなかったことを事業者側が証明する必要があるという条件つきです。詳しくは災害で会社の資産が壊れたときの経理・税務処理(法人向け)で解説しています。
→ 事業用は必要経費、生活用は雑損控除
→ 3年、特定非常災害なら5年
→ 10%控除と、実費−5万円
→ 併用不可。試算して有利なほうを
→ 予定納税の減額・納税の猶予
→ 片づける前に写真とり災証明書
個人事業主の災害対応は、「事業用か生活用か」の入り口を間違えると、その先の制度がすべて噛み合わなくなります。まず被害を受けたものを仕分けることから始めてください。
そのうえで、雑損控除と災害減免法はどちらか有利なほうを選ぶ制度です。金額が大きい場合は自己判断せず、両方を試算したうえで税理士に相談することをおすすめします。
「事業用と自宅の按分をどうするか」「雑損控除と災害減免法のどちらを選ぶべきか」——災害時の申告は判断が分かれる場面が多く、しかも落ち着いて考える余裕がないときに求められます。税理士事務所での実務経験をもとに、状況に合わせたご相談を承っています。
ココナラの出品サービスもありますので、そちらもご活用ください。
お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします 説得力や信頼性が高まる知識をあなたに。本文中の「総所得金額等が58万円以下」は令和7年12月1日施行・令和7年分から適用の金額です(令和2年分〜令和6年分は48万円、令和元年分以前は38万円)。過年度分については、施行日前の適用関係を国税庁「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」でご確認ください。
雑損控除と災害減免法のどちらが有利かは個々の所得や損害の状況によって異なり、また災害の規模によっては個別の立法措置や告示が行われる場合があります。実際の申告にあたっては、必ず最新の国税庁の公表情報を確認のうえ、税理士にご相談ください。

