食料品の消費税1%で
納税額はどう変わる?
簡易課税を選ぶべきか、事業者側の視点で整理します
閣議決定の原文で何が確定し、何がまだ決まっていないかは、食料品消費税1%が閣議決定|確定したことと未定のことで詳しく整理しています。
当初は「食料品の消費税ゼロ」が議論されていました。それが1%になった理由は、税収の問題だけではありません。事業者のレジ・システム改修にかかる時間が大きく影響していると報じられています。
消費税の世界では、「0%(ゼロ税率)」と「1%」はまったく別の作業です。0%にすると、これまで存在しなかった税率区分を新しく作ることになり、レジや会計システムの構造そのものを直す必要が出てきます。一方で1%なら、多くの場合は既存の税率設定の数値を書き換える対応で足ります。この差が、対応期間の差になります。
まず、なぜ税率が下がると納税額が増えることがあるのかを理解するために、消費税の計算の骨組みを確認します。
事業者が納める消費税は、ざっくり言うと次の引き算です。
この「払った消費税を引く」部分を仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)といいます。
ポイントは、引き算だという点です。売上側の税率が下がれば「預かった税」が減りますが、仕入側の税率が下がれば「引ける税」も減ります。どちらが下がるかで、結果が正反対になります。
- 売上の税率が下がる→ 預かる税が減る → 納税額は減る(場合によっては還付)
- 仕入の税率が下がる→ 引ける税が減る → 納税額は増える
食料品だけが1%になるということは、事業者ごとに「売上側が下がる人」と「仕入側が下がる人」に分かれるということです。ここから、業態別に見ていきます。
スーパー、パン屋、惣菜店、食品製造業などは、売る物が食料品=売上の税率が1%に下がる側です。
一方で、これらの事業者が払う費用は食料品ばかりではありません。包装資材、水道光熱費、燃料、機械、家賃、外注費、システム利用料などは10%のままです。すると、預かる税が小さく、払った税が大きいという状態になります。
・預かった消費税:1,000万円 × 1% = 10万円
・払った消費税(10%対象分):300万円 × 10% = 30万円
・差引:10万円 − 30万円 = △20万円(還付)
※材料の仕入や他の取引を省いた極端な単純化です。実際は仕入・売上の中身によって結果が変わります。
このように、原則課税なら差額の還付を受けられる可能性があります。今まで「毎年消費税を納めていた」事業者が、還付側に回ることもあり得るわけです。
報じられている内容では、店内飲食(外食)は10%のまま据え置きとされています。テイクアウトやコンビニ弁当・惣菜は1%の対象です。
すると、店内飲食が中心の飲食店では次の状態になります。
- 売上は10%のまま→ 預かる税は変わらない
- 食材の仕入は1%に下がる→ 引ける税が大幅に減る
- 結果として納める消費税が増える
【現在】売上10%・食材8%
預かり100万円 − 引ける24万円 = 納税76万円
【1%後】売上10%・食材1%
預かり100万円 − 引ける3万円 = 納税97万円
差額約21万円、納税が増える計算です。
※他の経費(家賃・光熱費など10%対象)の仕入税額控除を省いた単純化です。実際にはそれらも差し引きます。
注意したいのは、これは「損をする」とは少し違うという点です。食材の仕入価格が税込で下がっていれば、その分の支出は減っています。減った支出のうち消費税相当額が、あとで納税として出ていく——お金の出るタイミングが決算・申告時にずれるという性質のものです。
あわせて、店内飲食10%・テイクアウト1%という税率差が9ポイントに開く点も実務に効きます。現在の10%と8%(2ポイント差)とは規模が違い、レジでの区分ミスがそのまま納税額の誤りにつながります。店内かテイクアウトかの判定と記録は、これまで以上に重要になります。
ここが今回いちばんお伝えしたい論点です。
簡易課税とは、実際に払った消費税を集計せず、売上で預かった消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算する方法です。経理はかなり楽になるため、小規模事業者に広く使われています。
みなし仕入率(国税庁の事業区分より)
・第1種 卸売業:90%
・第2種 小売業、飲食料品の農林漁業:80%
・第3種 製造業・建設業など:70%
・第4種 その他(飲食店業はここ):60%
・第5種 運輸・通信・金融保険・サービス業など:50%
・第6種 不動産業:40%
この式をよく見てください。実際に払った消費税は、どこにも出てきません。納税額は「預かった消費税」だけで決まります。ここに1%減税が効くと、どうなるか。
【現在】売上8%
預かり80万円 − 控除64万円(80万円×80%) = 納税16万円
【1%後】売上1%
預かり10万円 − 控除8万円(10万円×80%) = 納税2万円
納税額そのものは減ります。ただしPOINT 03で見た「還付」は一切ありません。10%で払った経費の消費税は、簡易課税では計算に入らないためです。
つまり食品小売・製造の事業者にとっては、同じ状況でも「原則課税なら還付、簡易課税なら納税」という差が生まれます。これまでは簡易課税のほうが有利だった事業者でも、1%になると有利不利が逆転する可能性があるのです。
「1%になってから有利なほうを選べばいい」と考えたくなりますが、簡易課税は原則として事前の届出が必要です。ここが最大の落とし穴です。
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間で使える
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出する
- いったん選ぶと、原則2年間はやめられない(2年経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出書を出せない)
- やめるときは「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する
「初日の前日まで」というのは、個人事業主なら適用したい年の前年12月31日まで、法人なら適用したい事業年度が始まる前日までということです。決算が終わってから「今期は簡易課税にしよう」と決めることはできません。
個人事業主の場合、2027年は1〜3月が8%・4月以降が1%という形で、1年の中に税率の切り替わりが入ります。減税の開始も終了も期首と一致しないため、「減税期間だけ簡易課税」といった都合のよい合わせ方はできません。3月決算以外の法人も同じ問題を抱えます。
さらに期間が延長される可能性もあります。2年で戻る前提で2年縛りを組んだのに期間が延びる、という展開もあり得るため、「戻る時期」を織り込んだ賭けはしないほうが安全です。
国税庁の例では、令和7年分まで2割特例で申告した個人事業主が、令和8年分の確定申告期限(令和9年3月31日)までに届出書を出せば、令和8年分から簡易課税を適用できるとされています。つまり1年の結果を見てから判断できるということです。
ちょうど今は、2割特例の終了時期と減税の話が重なっている時期にあたります。ご自身がこの特例を使えるかどうかは、課税期間の区切りや適用状況によって変わるため、必ず税理士や所轄の税務署に確認してください。
2割特例やインボイスの各経過措置は、それぞれ期限が異なり、期限が近づくと見直されることもあります。「自分がいまどの特例の上にいるのか」を先に確認するのが、判断の出発点になります。インボイス制度の全体像は、下の関連記事で整理しています。
「1%になっても、結局値上げで元に戻るのでは」という受け止めは、専門家や現場からも示されています。
- 原材料高や人手不足による価格転嫁が続き、減税による価格の押し下げ効果は相殺されていくという民間エコノミストの試算が報じられています
- 小売の現場からは「お得感が出るのは初めの1か月くらい」という声も出ています
- 飲食店側からは、店内飲食が10%のままである点への懸念が示されています
価格が実際にどうなるか、賃上げなどにつながるかは、この記事で断定できることではありません。事業者として確実に言えるのは、「価格がどうなろうと、納税額の計算構造は変わる」という点です。価格の見通しは読めなくても、自社の納税額がどちらに動くかは、いまの帳簿から試算できます。
② 仕入・経費のうち、食料品(1%になる分)と10%のままの分の割合をつかむ
③ 原則課税と簡易課税で、それぞれ納税額がどう動くか試算する
④ レジ・会計システムが税率変更に対応できるか、ベンダーに確認する
⑤ 届出が必要になりそうなら、期首前という期限から逆算して準備する
→ 売上と仕入で結論が逆
→ 原則課税なら還付の可能性
→ 納税額が増える側
→ 還付はなく恩恵も薄い
→ 2年縛りにも注意
→ 納税額の試算は今できる
食料品の消費税1%は、消費者にとっては「安くなるかどうか」の話ですが、事業者にとっては「納税額がどちらに動くか」と「どの計算方法を選ぶか」の話です。しかも簡易課税の届出は課税期間の初日の前日まで、2年縛りもあるため、気づいてから動くと間に合わないことがあります。制度が固まるのを待ちつつ、自社がどちら側なのかの試算だけは先に始めておくことをおすすめします。
「うちは還付になるのか、納税が増えるのか」「簡易課税を続けるべきか」——制度が固まる前でも、いまの帳簿から試算はできます。税理士事務所での実務経験をもとに、個人事業主・小規模事業者の経理をサポートします。
ココナラで相談サービスも出品していますので、そちらもご活用ください。

