社会保険料の9月改定
引くのは9月か10月か
答えは自社が「翌月控除」か「当月控除」かで変わります
これにはひとつの正解がありません。社会保険料をいつの給与から控除するかは会社によって異なり、前月分を引く「翌月控除」なら10月支給の給与から、その月の分を引く「当月控除」なら9月支給の給与から変わります。法律はどちらかを強制していません。
この記事では、「適用月」と「控除月」が別のものであることを法律の条文から確認し、随時改定(月額変更届)が重なったときにどちらが優先されるかまでを整理します。あわせて10月の給与計算で実際に確認する順番(納入告知額との突合・最低賃金改定との重なり)もまとめました。9月・10月の給与計算に入る前に、ここを押さえておくと事故を防げます。
定時決定で決まった標準報酬月額は、9月から翌年8月まで適用されます
実際に控除する月は、自社の方式で決まる
翌月控除なら10月支給の給与から、当月控除なら9月支給の給与から新しい保険料になります。まず自社がどちらかを確認してください
7月・8月・9月に随時改定に該当する人は、そちらが優先される
定時決定より随時改定(月額変更届)が優先します。算定基礎届の対象から外れる人がいます
どちらの方式でも、納付期限は翌月末日
控除の方式と納付の期限は別のものです。9月分の保険料の納付期限は10月31日です
会社負担は、本人負担と同額にはならない
折半なのは健康保険料と厚生年金保険料までで、これに全額会社負担の子ども・子育て拠出金が乗ります。本人負担分×2では納入告知額に一致しません
まず、定時決定そのものを確認します。日本年金機構は次のように説明しています。
ここで押さえるべきは、「9月から適用」とは「9月分の保険料から新しい等級で計算する」という意味だということです。9月に支給する給与から引く、という意味ではありません。
この2つは、実務ではまったく別のものになります。理由は次の見出しで確認します。
対象となる報酬は4月・5月・6月に支払われた報酬です。ここは「計算対象の月」ではなく実際に支払った月で見ます。末締め翌月払いの会社であれば、3月・4月・5月分の労働に対する給与が対象になります。
控除のタイミングは、法律に書かれています。
ここで条文の末尾に注目してください。「控除することができる」という書き方になっています。「控除しなければならない」ではありません。
つまり法律は、前月分を引くこと(翌月控除)を認めてはいるものの、それを強制はしていないという建て付けです。そのため実務では、2つの方式が存在します。
8月分の保険料(=改定前の等級) → 9月支給の給与から控除
9月分の保険料(=改定後の新しい等級) → 10月支給の給与から控除
この場合、従業員の手取りが変わるのは10月の給与です。9月の給与明細を見て「等級が変わったはずなのに保険料が変わっていない」と言われることがありますが、それで正しいことになります。
8月分の保険料(=改定前の等級) → 8月支給の給与から控除
9月分の保険料(=改定後の新しい等級) → 9月支給の給与から控除
この場合、従業員の手取りが変わるのは9月の給与です。翌月控除の会社より1か月早く反映されます。
逆に、当月控除の会社の担当者が「9月から」という前提で他社の資料を読むと、翌月控除の会社では1か月早く引きすぎることになります。どちらが正しいという話ではなく、自社がどちらかを知らないまま作業すると誤るという性質のものです。
就業規則・賃金規程・過去の給与データで確認できます。前任者から引き継いだままで根拠が分からない場合は、この機会に整理しておくと以後の判断が速くなります。
控除の方式と納付期限は別のものです。当月控除の会社は「9月に控除して10月末に納付」、翌月控除の会社は「10月に控除して10月末に納付」となり、当月控除のほうが手元に預かる期間が長くなります。
あわせて、同条第3項も実務に関わります。「事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。」——通常は給与明細がこの通知を兼ねます。
ここが、9月改定でもっとも間違えやすい部分です。全員が一律に9月改定になるわけではありません。
まず、随時改定(月額変更届)の要件を確認します。次の3つをすべて満たしたときに該当します。
昇給・降給など、支給額や支給率が決まっているものに変動があったこと
(2) 2等級以上の差
変動月以後引き続く3カ月の報酬の平均額から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと
(3) 支払基礎日数17日以上
変動月以後引き続く3カ月の支払基礎日数が、いずれも17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)であること
改定されるのは、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4カ月目です。4月に支払われる給与に変動があったなら7月改定、5月なら8月改定、6月なら9月改定になります。
等級表の一番上・一番下の付近では、報酬が大きく変わっても等級が1つしか動かないことがあるためです。「2等級動いていないから対象外」と機械的に判断せず、上限・下限付近の人は個別に確認してください。
また、休職による休職給を受けた場合は、固定的賃金の変動に該当しないため随時改定の対象になりません。金額が大きく下がるため対象になりそうに見えますが、扱いが異なります。
7月以降に改定された場合は、翌年の8月まで適用されます。7月・8月・9月の随時改定に該当した人が定時決定の対象から外れるのは、このためです。
そして、定時決定との関係について、日本年金機構は次のように示しています。
ここで「算定基礎届の提出後であっても」と書かれている点が実務では重要です。7月に算定基礎届を出したあとで随時改定の要件を満たした場合、あらためて月額変更届を出す必要があります。出し終えたら終わり、ではありません。
そして、算定基礎届の提出対象者について、日本年金機構は次のように定めています。
(1) 6月1日以降に資格取得した方(取得時決定の等級が翌年8月まで続くため)
(2) 6月30日以前に退職した方
(3) 7月改定の月額変更届を提出する方
(4) 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った方
このうち(3)と(4)は、同じ書き方で提出することになっています。
算定基礎届の報酬月額欄を記入せず空欄としたうえで、備考欄の「3.月額変更予定」に〇を付けて提出します。用紙自体は出すという点に注意してください
電子媒体申請・電子申請の場合
(3)(4)の方を除いて作成します
なお(4)は、7月の提出時点では8月・9月の随時改定がまだ確定していないため、「予定」として申し出る取扱いです。
3カ月の平均で2等級以上の差が出ない、支払基礎日数が17日に満たない月があった——こうしたケースでは随時改定は成立しません。日本年金機構は「上記(4)の方について、随時改定の要件に該当しないことが判明した場合は、速やかに算定基礎届をご提出ください」としています。
省略したまま放置すると、その人だけ標準報酬月額が更新されません。7月に「予定」で省略した人は、該当・非該当が確定する時点で必ず結果を確認するという段取りにしておいてください。ここは自動では戻ってきません。
改定時期と並んで問い合わせが多いのが、退職者の保険料です。前提となるのは資格喪失日の考え方です。
資格喪失日は「退職日の翌日」である点が重要です。ここが1日ずれるだけで、保険料が1か月分変わります。
これを退職日ごとに当てはめると、次のようになります。
資格喪失日は9月21日。喪失月は9月なので、その前月=8月分まで保険料が発生します。
月末退職(例: 9月30日退職)
資格喪失日は10月1日。喪失月は10月なので、その前月=9月分まで保険料が発生します。1日違いで1か月分増えます。
ここまでは控除の方式に関係なく共通です。問題は、発生した保険料をどの給与から控除するかで、ここは自社の締日・支払日によって変わります。
末締め翌月払いの会社(9月30日退職・10月25日に最終給与)
9月分の労働に対する給与を10月に支給します。翌月控除であれば、その10月の給与で9月分の保険料を通常どおり1か月分控除すれば足ります。2か月分にはなりません。
退職月が最後の支給になる会社(当月締め当月払いなど)
9月支給の給与が最後で、その後に支給する給与がありません。翌月控除では9月支給時点で8月分を控除しているため、発生済みの9月分を回収する機会が最終給与しかなく、ここで8月分と9月分の2か月分を控除することになります。
根拠は条文にも置かれています。第167条第1項の括弧書き——「被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料」——は、最後の給与でまとめて控除することを認めた規定です。常に2か月分にせよという意味ではありません。
月中退職(9月20日)では9月分の保険料が発生しないため、すでに控除した9月分を返す(還付する)処理が必要になります。
あわせて、最終給与の額そのものが少ない場合、2か月分を控除しきれないことがあります。この場合の回収方法(本人からの振込など)を、退職前に決めておく必要があります。
まず確認すべきは「退職後に支給する給与が残っているか」です。ここを見ずに「月末退職だから2か月分」と機械的に処理すると、引きすぎになります。
厚生年金保険について、日本年金機構は次のように示しています。
「厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失した場合は、厚生年金保険料の納付が必要になります」
つまり1日だけの在籍でも1か月分の保険料が発生します。入社直後の退職では、最終給与から控除する必要があります。
ただし、還付される場合があります。
「ただし、厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失し、さらにその月に厚生年金保険または国民年金の資格を取得した場合は、先に喪失した厚生年金保険料の納付は不要となります」
手続きについても続けてこう書かれています。「この場合、年金事務所から対象の会社あてに厚生年金保険料の還付についてのお知らせを送付します。厚生年金保険料の還付後、被保険者負担分は会社から被保険者であった方へ還付することになります」
実務上の注意は順番です。還付は年金事務所からのお知らせを受けてから行います。転職や国民年金への加入を本人から聞いていても、会社の判断で先に返金しないでください。控除はいったん行い、通知が届いた後に本人へ返す流れになります。
なお健康保険の保険料は、厚生年金保険とは別に判断されます。加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)によって手続きが異なるため、同月得喪が出たら、控除額を確定させる前に年金事務所または健康保険組合へ確認してください。
資格喪失日は退職日の翌日なので、ここでも月末退職かどうかで結論が変わります。
月中退職(9月20日退職)/資格喪失日は9月21日で喪失月は9月。9月に支給した賞与は保険料の対象になりません
月末退職(9月30日退職)/資格喪失日は10月1日で喪失月は10月。9月に支給した賞与は保険料の対象になります
なお資格取得と喪失が同じ月(同月得喪)の場合は、「資格取得日から資格喪失日の前日までに支払われたものであれば対象となります」とされています。
標準賞与額には上限があり、健康保険は年度累計573万円(4月1日〜翌年3月31日)、厚生年金保険は1か月あたり150万円です。同月内に2回以上支給したときは合算して上限が適用されます。
健康保険料・厚生年金保険料は会社と本人が折半で負担します。会社負担分は法定福利費、本人負担分は給与から預かるだけなので預り金で処理するのが基本形です。
子ども・子育て拠出金は全額が会社負担です。本人からは控除しません(給与明細にも出てきません)。厚生年金保険の標準報酬月額および標準賞与額に拠出金率を掛けて計算します。
そのため納入告知額と「本人負担分×2」は一致しません。ここを同額だと思って突合すると、拠出金の分だけ合わずに原因を探すことになります。
※2026年4月から段階的に始まった子ども・子育て支援金は、医療保険料とあわせて徴収される別の制度です。拠出金とは異なり本人負担が生じます。名称が似ているため混同しないでください。
借方
・給料手当 300,000
貸方
・預り金(社会保険料) 42,450
・預り金(雇用保険料) 1,800
・預り金(源泉所得税) 8,000
・預り金(住民税) 12,000
・普通預金 235,750
本人負担分は預かっただけなので費用にはしません。ここで法定福利費を使わないのがポイントです。
預り金は納付先も納付時期も異なります。社会保険料は年金事務所へ翌月末、源泉所得税は税務署へ翌月10日、住民税は市区町村へ翌月10日、雇用保険料は労働保険料として年度単位で精算します。補助科目で分けておかないと、残高が合っているかを確認できません。
内訳: 本人負担42,450円+会社負担42,450円+子ども・子育て拠出金1,080円
借方
・預り金(社会保険料) 42,450
・法定福利費 43,530
貸方
・普通預金 85,980
給与支給時に預かった42,450円がここで消え、会社負担分42,450円と拠出金1,080円をあわせた43,530円が法定福利費として残ります。本人負担分より会社負担分のほうが大きくなるのは、この拠出金があるためです。
※この例は標準報酬月額300,000円・厚生年金保険料率18.3%(折半9.15%)・健康保険料率10.0%(折半5.0%)・子ども・子育て拠出金率0.36%で計算しています。健康保険料率は都道府県および健康保険組合によって異なり、拠出金率も改定されます。実際の金額は必ず保険料額表および納入告知書で確認してください
仕訳の形は変わらず、控除する月だけがひと月早くなります。そのぶん、預り金を計上してから納付するまでの期間が長くなります。
・控除は新等級なのに、納付が旧等級のまま(またはその逆)
・随時改定の対象者だけ、改定月が他の人とずれている
・月末退職者の2か月分控除が、納付額と対応していない
・子ども・子育て拠出金を法定福利費に計上し忘れている(全額会社負担のため、本人負担分×2では納入告知額に一致しません)
・同月得喪の人の保険料を控除し忘れている(入社した月に退職した場合も保険料が発生します)
納入告知額との突合を、改定月は必ず行ってください。毎月届く保険料の納入告知書と、自社の控除額の合計が一致するかを見るのが最も確実です。
ここが出発点です。就業規則・賃金規程・過去の給与データで確認できます
2. 決定通知書が届いたら、システムの等級を更新する
新しい標準報酬月額は決定通知書で確認します。給与システムへの反映漏れが最も多い事故です
3. 反映する給与月を間違えない
翌月控除なら10月支給分から、当月控除なら9月支給分から。どちらも「9月分の保険料」を引いている点は同じです
4. 7月に「随時改定予定」で省略した人の結果を確認する
該当しなかった場合は、速やかに算定基礎届を提出します
5. 従業員へ事前に周知する
手取りが変わる月と理由を先に伝えておくと、問い合わせが減ります
日本年金機構の厚生年金保険料額表等から、その時点の最新の表を確認できます。
本記事には具体的な等級表を掲載していません。年度改定のたびに数値が変わり、古い情報が残ると計算を誤らせるためです。金額は必ず上記の公式ページで確認してください。
ここまでは「どの月から新しい保険料になるか」という話でした。10月は、その結果が実際に数字として出てくる月です。翌月控除の会社は10月支給の給与から新等級になり、当月控除の会社は9月に控除した分の納付期限が10月末に来ます。どちらの方式でも、10月に確認すべきことがあります。
保険料額をお知らせする「保険料納入告知額・領収済額通知書」は、日本年金機構から毎月20日頃に事業所へ送付されます。9月分であれば10月20日頃です(郵便事情により前後します)。ここに記載された金額と、本人負担分+会社負担分+子ども・子育て拠出金の合計が一致するかを確認します。本人負担分を2倍しても一致しません(拠出金は全額会社負担のため)。それでも合わなければ、等級の反映漏れか対象者の誤りです
2. 随時改定の対象者だけ、別の等級になっていないかを見る
7月・8月・9月に随時改定に該当した人は、定時決定とは別の等級で動いています。一括更新で全員を新等級に上書きしてしまう事故が起きやすい箇所です
3. 9月末退職者の精算が終わっているかを確認する
9月30日退職の場合、9月分まで保険料が発生します。翌月控除の会社では最終給与で2か月分の控除が必要で、控除しきれていない場合は10月中に回収方法を決めます
4. 預り金の残高が想定どおりかを見る
納付が終わった時点で、預り金(社会保険料)の残高が本人負担分の未納付額と一致しているのが正常な状態です。改定月をまたぐと、ここに差額が残りやすくなります
特に1つ目の突合は、改定が正しく反映されたかを確認できる最も確実な方法です。給与システムの表示だけを見ていると、等級の更新漏れに気づけません。
・決定通知書の等級が、給与システムに反映されていない人がいる
・随時改定の対象者を、定時決定の等級で上書きしてしまった
・9月中の入退社が、納入告知書と自社の名簿でずれている
・賞与を支給した月で、賞与分の保険料が別計算になっている
・同月得喪(入社した月に退職)の人を、保険料の対象から外している
差額をそのまま雑損失などで消さないでください。原因が残ったままだと、翌月以降も同じ差額が出続けます。人ごとに突き合わせれば、どの区分でずれているかは特定できます。
時給や日給の単価を引き上げると固定的賃金の変動にあたります。その後3か月の平均で2等級以上の差が出れば(支払基礎日数の要件も満たせば)、随時改定(月額変更届)の対象になります。
改定されるのは変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目です。起算するのは「支払った月」であって、発効日の月ではありません。10月支給の給与から単価が上がったなら翌年1月改定、末締め翌月払いなどで11月支給から反映されるなら翌年2月改定になります。自社の締日・支払日で数えてください。
9月の定時決定を終えたばかりでも、単価を上げた人については別途この確認が必要になります。
従業員から「10月から変わると聞いたのに9月に変わった」と言われた場合、誤りではなく自社が当月控除だというだけです。POINT02に戻って自社の方式を確認してください。
社外の情報は翌月控除を前提に書かれているものが多いため、自社の方式と照らして読む必要があります。
所得税の50%ルールと社会保険の評価額の違いを、実際の数字で整理しています。
→ 翌年8月まで続く
→ 翌月控除は10月・当月控除は9月
→ 7〜9月改定の人は対象外
→ 非該当なら算定基礎届を提出
→ 残っていれば2か月分にならない
→ 反映漏れはここでしか気づけない
改定月の処理や退職者の保険料、同月得喪の扱いは、金額が合わないまま先に進みにくい部分です。仕訳や預り金の残高が合わないとき、第三者に一度見てもらうと整理がつくことがあります。
お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。※具体的な税額の計算・申告書の作成・個別の税務判断は税理士業務のため承っておりません。
子ども・子育て拠出金率および子ども・子育て支援金の料率も改定されるため、納入告知書および最新の公表資料でご確認ください。
同月得喪の取扱いは日本年金機構の公表内容にもとづいて記載していますが、健康保険の保険料および還付の手続きは加入している保険者によって異なります。社会保険の資格や届出に関する個別の判断は、管轄の年金事務所・健康保険組合または社会保険労務士へご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。
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