住民税の特別徴収|退職者が出たときの一括徴収と仕訳の実務

住民税の特別徴収|退職者が出たときの一括徴収と仕訳の実務 経理の実務手順
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税理士事務所の現場から

住民税の特別徴収、
退職者が出たときの処理は月で変わります

「1月〜5月は一括徴収」と覚えていると、条文とずれます

6月〜12月 申出があれば 一括徴収 1月〜4月30日 申出がなくても 一括徴収 5月 最終月分を 通常どおり徴収 いずれも「残額を超える給与・退職金があるとき」が条件です
住民税の特別徴収は、毎月同じ額を預かって翌月10日までに納める——それだけなら迷いません。実務で手が止まるのは、年の途中で退職者が出たときです。

このとき「1月から5月に辞めた人は一括徴収」と覚えている方が多いのですが、地方税法の条文が定めているのは「1月1日から4月30日」です。5月は入っていません。さらに条文には、一括徴収したくてもできない場合まで書かれています。

この記事では、特別徴収の1年の流れと、退職月による3つの分岐を、地方税法第321条の5の条文にあたって整理します。あわせて、自治体によって通知書の名前が違う理由もお伝えします。
POINT01
通知書の名前が自治体で違うのはなぜか
特別区民税・市県民税・町県民税——名前は違っても中身は同じです

届いた通知書を見て「うちは市県民税と書いてあるけれど、住民税と同じもの?」と迷うことがあります。結論から言うと同じものです。

個人住民税は、道府県民税と市町村民税をあわせた呼び名です。法律上の正式な名前ではなく、2つをまとめて呼ぶときの通称にあたります。そのため、自治体は自分のところの区分に合わせて書きます。

同じ税金の、自治体ごとの呼び名
  • 市民税・県民税(市県民税): 市に住んでいる場合。最も多い書き方です
  • 町民税・県民税(町県民税): 町に住んでいる場合
  • 村民税・県民税: 村に住んでいる場合
  • 特別区民税・都民税: 東京23区に住んでいる場合。「市」ではなく「特別区」になります
  • 市民税・府民税: 大阪府・京都府に住んでいる場合。「県」が「府」になります
  • 市民税・道民税: 北海道に住んでいる場合
✓ 仕訳はどの呼び名でも同じです
通知書に何と書かれていても、従業員から預かった分は「預り金」です。呼び名で科目が変わることはありません。

従業員が10人いて、住んでいる自治体が10か所に分かれていれば、通知書は10通届きます。名前もバラバラです。しかし処理は同じで、自治体ごとに分けて納める点だけが実務の手間になります。

科目そのものの整理は別の記事にまとめています。従業員の分・個人事業主本人の分・法人の分で科目が3通りに分かれる話は、そちらをご覧ください。

POINT02
6月から翌年5月という区切りの根拠
12分の1ずつ、翌月10日まで。条文にそのまま書かれています

特別徴収の基本的な流れは、地方税法第321条の5第1項が定めています。条文を見ると、実務で使う数字がそのまま出てきます。

⚠ 地方税法 第321条の5 第1項(抜粋)
「当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額の十二分の一の額を六月から翌年五月まで(中略)それぞれ給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う

ここから読み取れることは3つです。

条文が定めている3つのこと
  • 期間は6月から翌年5月: 会計年度(4月〜3月)とも暦年(1月〜12月)ともずれます。住民税だけの独自の区切りです
  • 金額は12分の1: 年税額を12回に割ります。ただし割り切れない端数は6月分にまとめるのが一般的で、6月だけ金額が違うのはこのためです
  • 納入は翌月10日まで: 「納付」ではなく「納入」と書かれています。預かったお金を納める立場だからです
✓ 少額の場合は12回に分けません
同じ条文のただし書きに、特別徴収税額が均等割額に相当する金額以下である場合は、最初に徴収すべき月にその全額を徴収すると定められています。

年税額が小さい人は、12回に分けず6月に一度で引き切るということです。通知書を見て「この人だけ6月だけ金額が入っている」というときは、これに当たる可能性があります。

なお、特別徴収は事業主が選ぶものではありません。地方税法第321条の4により、給与を支払う者のうち所得税を源泉徴収する義務がある者は、市町村の条例によって特別徴収義務者として指定されます。「うちは普通徴収にしたい」という選択が原則できないのは、このためです。

CASE03
退職者が出たとき、月で3つに分かれる
「1月から5月は一括徴収」は、条文と少しずれています

ここがこの記事の中心です。従業員が退職すると、残りの月割額をどうするかという問題が出ます。地方税法第321条の5第2項が定めています。

まず原則から確認します。条文の本文はこうです。

⚠ 原則: 辞めた月の翌月以降は、徴収の義務がなくなる
「納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなつた場合には、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額は、これを徴収して納入する義務を負わない

つまり原則は「そこで終わり」です。残りは本人が普通徴収で納めます。一括徴収は、このあとに続くただし書きで定められた例外です。

退職した月による3つの分岐
  • 6月1日から12月31日に退職: 本人からの申出があった場合に一括徴収します。申出がなければ原則どおり、残りは普通徴収へ切り替わります
  • 翌年1月1日から4月30日に退職: 申出がなくても一括徴収の対象になります。条文が期間を区切って定めています
  • 5月に退職: そもそも5月分が最後の月割額です。通常どおり徴収して納入すれば完了し、「一括徴収」という論点が起きません
⚠ 「1月から5月は一括徴収」という説明との違い
条文が名指ししている期間は「その年の翌年の一月一日から四月三十日までの間」です。5月は含まれていません。

ただし結果として引く金額は変わりません。5月退職なら残りは5月分だけなので、通常の徴収で完結するからです。「1月から5月」という言い方は結論としては同じですが、条文の建て付けは違う、と理解しておくと自治体の案内文を読むときに迷いません。

もうひとつ、実務で必要になる手続きがあります。第3項です。

✓ 退職したら、自治体へ届出書を出します
条文は、給与の支払を受けないこととなった納税義務者の氏名既に徴収した月割額の合計額などを記載した届出書を市町村長に提出しなければならないと定めています。

様式は自治体ごとに用意されています(「給与所得者異動届出書」という名前で案内されていることが多い書類です)。提出先・期限・書式は自治体によって異なるため、納入先の自治体の案内を確認してください。出し忘れると、辞めた人の分がいつまでも会社宛の通知に残り続けます。
RISK04
一括徴収したくてもできない場合がある
最後の給与が、残りの住民税より少ないとき

1月から4月の退職なら一括徴収、と決まっているように見えますが、条文にはもうひとつ条件が付いています。ここが見落とされやすい部分です。

⚠ 条文が付けている条件
「当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り

読み替えると、「最後に支払う給与や退職金が、残っている住民税の全額を超えていること」が条件です。超えていなければ、一括徴収はできません。

実際に起きるのはこういう場面
  • 月の初めに退職した: 数日分の給与しか出ないため、残り4か月分の住民税に届かない
  • 欠勤が続いていた: 最後の給与が普段より大幅に少ない
  • 退職金がない、または少ない: 給与と合わせても残額に届かない
✓ 足りないときはどうなるか
条文は、支払われた給与や退職手当等の額から徴収することができる額を徴収する、という形も定めています。引ける分だけ引くという考え方です。

引き切れなかった残りは普通徴収へ切り替わり、本人が自治体から届く納付書で納めることになります。この切り替えも、先ほどの異動届出書で自治体に伝えます。
⚠ 本人への説明を先にしておくと揉めません
1月から4月の退職では、最後の給与から住民税が数か月分まとめて引かれます。手取りが想定より大きく減るため、事前に伝えていないと「引かれすぎでは」という問い合わせにつながります。

逆に引き切れなかった場合は、後から本人宛に納付書が届きます。どちらのケースになるのかを退職手続きの時点で伝えておくと、あとの説明が楽になります。
POINT05
納期の特例は源泉所得税と期限が違う
同じ「年2回」でも、区切りも期限も別物です

従業員が少ない事業所では、住民税にも納期の特例があります。毎月ではなく年2回にまとめて納入できる制度です。

ここで事故が起きやすいのは、源泉所得税の納期特例と混同するケースです。名前が似ていて、どちらも年2回ですが、区切る月も期限も違います。

2つの納期特例は別の制度
  • 住民税の納期特例: 6月から11月分を12月10日まで、12月から翌年5月分を翌年6月10日までに納入します。住民税の年度(6月〜翌年5月)で区切られます
  • 源泉所得税の納期特例: 1月から6月分を7月10日まで、7月から12月分を翌年1月20日までに納付します。暦年で区切られ、後半の期限は10日ではなく20日です
⚠ 特例を使うには申請が必要です
住民税の納期特例は自動では適用されません。従業員数などの要件を満たしたうえで、自治体へ申請し承認を受ける必要があります。要件や手続きは自治体によって異なるため、納入先の自治体にご確認ください。

また、承認を受けていない状態で年2回にまとめると期限後の納入になります。預かったお金を遅れて納めることになるため、注意が必要です。
✓ 預り金の残高で確認できます
毎月きちんと処理できているかは、預り金の残高を見ると分かります。翌月10日に納入していれば、住民税分の残高は1か月分だけが繰り越されている状態になります。

残高が2か月分、3か月分と積み上がっている場合は、納入漏れか、仕訳の計上漏れのどちらかが起きています。月次で残高を見る習慣があると、早い段階で気づけます。
この記事のまとめ
POINT 01
通知書の名前は自治体で違う
→ 中身も仕訳も同じ
POINT 02
6月から翌年5月の12回
→ 納入は翌月10日まで
POINT 03
6月〜12月退職は申出が必要
→ 申出がなければ普通徴収へ
POINT 04
条文の期間は1月〜4月30日
→ 5月退職は通常の徴収で完結
POINT 05
給与が残額に届かないとき
→ 引ける分だけ引き普通徴収へ
POINT 06
納期特例は源泉所得税と別
→ 区切りも期限も違う
預り金の残高が合わないとき

住民税の預り金は、退職者が出た月にずれが起きやすい部分です。一括徴収した分の計上が漏れていたり、異動届出書を出す前の通知で納入していたりすると、残高が合わなくなります。自分で追いきれないときは、第三者に一度見てもらうと整理がつくことがあります。

お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします

税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。※具体的な税額の計算・申告書の作成・個別の税務判断は税理士業務のため承っておりません。

本記事は2026年9月3日時点の地方税法(第321条の4・第321条の5)および総務省の公表情報をもとに作成しています。条文の引用は e-Gov 法令検索で取得した原文によります。住民税の特別徴収に関する具体的な手続き(異動届出書の様式・提出期限・納期の特例の要件と申請方法など)は各市区町村の条例および運用によって異なります。実際の手続きにあたっては、納入先の市区町村の案内をご確認ください。退職時の一括徴収は、支払われる給与または退職手当等の額によって結論が変わります。個別の判断に迷う場合は、顧問税理士または納入先の市区町村にご確認ください。本記事にはアフィリエイト広告および筆者自身の出品サービスの紹介が含まれています。
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