税務署を名乗る人が来たら
確かめてよいこと
身分証明書の提示を求めるのは、法律で認められた権利です
実は提示を求めるのは、法律で認められた権利です。国税通則法は、調査を行う職員に対して身分を示す証明書の携帯を義務づけ、関係人の請求があったときは提示しなければならないと定めています。つまり、こちらから求めてよいものなのです。
この記事では、税務署の職員が「やること」と「やらないこと」を国税庁の原典で確認し、会社として決めておくべき応対ルールを整理します。あわせて、税務署にお金を払う経路は限られているという点を押さえます。ここを知っておくと、不審な要求を受けたときに判断ができます。
法律上、携帯は常時の義務で、提示は請求があったときの義務です。国税庁の内部ルールでは求められる前に提示することになっています。求めても出さないなら、その時点でおかしいと考えてよい場面です
税務署の職員に現金を渡す場面は、通常の調査にはありません
税金は納付書・口座振替・電子納付などで納めるもので、調査担当の職員が現金を預かることはありません
ATMの操作や口座への振込を求められたら詐欺です
国税庁は「ATMの操作を求めることはありません」「金融機関の口座を指定して振込みを求めることはありません」と明言しています
迷ったら、その場で答えない
所属部署・氏名・電話番号を控えて一度切り、自分で調べた税務署の代表番号にかけ直すのが確実です。相手から教えられた番号にかけ直しても確認になりません
本記事は特定の事件や個人を論じるものではなく、報道をきっかけに「税務署の職員は何をして、何をしないのか」という制度上の線引きを確認することを目的としています。なお、これらは報道および国税局の発表に基づく内容であり、事実関係の最終的な認定は今後の手続きによります。
まず根拠から確認します。国税通則法第74条の13(身分証明書の携帯等)は、次のように定めています。
ここは正確に読む必要があります。「携帯」は常に義務ですが、「提示」は請求があったときの義務という書き方になっています。つまり法律上は、こちらが求めなければ提示されなくても違法ではないのです。
この点について、国税庁の法令解釈通達(徴収に関するもの)に、はっきりした記述があります。
読み替えると、こうなります。求めなければ提示されないこともあるが、求めたら出さない限り先に進めない。本物の職員であれば、求められて拒むことはできません。だからこそ「求めてよい」のです。
「実地の調査を実施する場合には、身分証明書(国税職務証票の交付を受けている場合は国税職務証票)及び質問検査章を必ず携帯し、質問検査等の相手方となる者に提示して調査のために往訪した旨を明らかにした上で、調査に対する理解と協力を得て質問検査等を行う」
これは法律ではなく行政の内部ルールです。守られなくても直ちに違法とはなりませんが、本来はこう運用されることになっているという基準になります。
この事務運営指針は平成25年(2013年)1月1日以後の運用として定められたものです。平成23年12月の国税通則法改正で調査手続の規定(第7章の2)が新設され、それまで運用上の取扱いだったものが法令上明確化されたことに伴うものです。
なお、首から下げているとは限りません。手帳型で必要なときに提示する形のため、「見た記憶がない」ということは実際に起こります。見えないから偽物、ということではなく、見たければ求める——これが正しい向き合い方です。
税理士に立ち会いを依頼している場合、調査官が税理士側に名刺を渡して挨拶を済ませ、納税者本人への提示場面がないまま調査が始まることもあります。これも珍しいことではありません。気になるなら、その場で「身分証明書を見せていただけますか」と言ってかまいません。失礼にはあたらず、本物の職員なら普通に応じます。
ここが本記事のいちばん実務的な部分です。税金を納める方法は決まっており、調査に来た職員に現金を手渡すという経路は、通常の税務調査には存在しません。
いずれも納税者自身が手続きするもので、職員が金銭を受け取って代わりに納めるという仕組みではありません。
修正申告をして追加の税金が出た場合も同じです。納付書などで自分で納めます。調査官がその場で集金することはありません。
「徴収担当職員がご自宅や事務所等において領収を行う場合には、必ず領収証書をその場で交付します」
つまりその場で領収証書が出ないなら、正規の手続きではありません。また、これは滞納整理の場面であって、通常の税務調査とは別の話です。
整理すると、判断の軸はこうなります。調査に来た職員が現金を求めてきたら、それは通常の手続きではない。徴収の場面であっても、その場で領収証書が交付されない金銭の受け渡しは正規ではない——この2点を覚えておけば足ります。
「税務職員が、アンケート等と称して電話することはありません」
「国税庁(国税局、税務署を含みます)では、AI・自動音声による電話連絡で国税の納付を求めることは行っていません」
「国税庁(国税局、税務署を含みます)では、滞納整理を外部業者に委託することはありません」
「税務職員が、会報の購読や有料の講習会の受講を勧誘したり、手数料の支払いを求めることはありません」
この5つは、そのまま詐欺の判定基準として使えます。いずれか一つでも当てはまれば、相手が本物かどうかを議論するまでもありません。
ここは経理担当者・経営者にとって重要な論点です。税務署の職員は国家公務員であり、国家公務員倫理規程の適用を受けます。
倫理規程では、職員が利害関係者から金銭や物品の贈与を受けることが禁止されています。そして税務調査を受ける事業者は、その調査を担当する職員にとっての利害関係者にあたります。
善意のつもりでも、後から見れば職員に便宜を図ってもらう趣旨だったのではないかと疑われかねません。会社としては「渡さない」と決めておくのが安全です。
もう一つ、経理上の扱いも押さえておきます。職員に渡した金銭は、経費として認められません。公務員への金銭の供与は、そもそも税務上の損金として扱えるものではなく、渡したこと自体が別の問題を生みます。「交際費で処理すればよい」という話にはならない、ということです。
金銭の要求を受けたら、その場で応じず必ず上長に報告する
調査対応は担当者を決め、一人で完結させない
最後の点が実は効きます。一人だけで応対している状況が、不正の温床になります。報道されている事案も、調査が終わったあとに担当者と個人的なやり取りが続いていたとされています。組織として複数人が関与する形にしておくことが、いちばん現実的な防御策です。
国税庁は、手口を類型別に注意喚起しています。順に見ていきます。
つまり心当たりのない書類について電話が来ることは、原則としてありません。提出した覚えのない申告書の話をされたら、そこで疑ってよい場面です。
国税庁が挙げている電話の事例には、次のようなものがあります。「税務署からのアンケートの協力依頼です」と切り出して個人情報を聞き出そうとするもの、ATMを操作させて振込を行わせるもの(振り込め詐欺)、「定額減税の関係で還付を受けられるので」と口座番号や暗証番号を聞き出そうとするもの、「国税局査察部です。税金の未納があります」と切り出すもの——いずれも金銭か口座情報に向かっていくのが共通点です。
② 相手の所属部署・氏名・電話番号を控える
③ 一度電話を切る
④ 自分で調べた番号にかけ直す——最寄りの税務署の総務課、または国税局の納税者支援調整官
重要なのは④で「相手が教えた番号」を使わないことです。折り返し先まで用意されている場合があるため、教えられた番号にかけても確認になりません。国税庁ホームページの「税務署の所在地などを知りたい方」から番号を調べます。
税務調査の連絡がチャットアプリで来ることは想定されていません。また、e-Taxから送信されるメールについて国税庁は「ファイルを添付することはなく、原則としてメール本文内にURLも記載していません」としています。
実例として、ゆうパックで送られ、依頼主名や住所・電話番号が手書きだったという事例が挙げられています。封筒が印字されたものかどうかは、確認しやすい手がかりです。
なお、査察調査など強制調査の場合は裁判官が発付した「臨検・捜索・差押許可状」を必ず呈示することとされ、現金等を差し押さえる場合も必ず差押目録を作成し、その謄本を交付することになっています。書面が一切出ないまま現金が持ち出されることはありません。
誤解を避けるために、ここも押さえておきます。税務調査は、原則として事前に通知されます。事務運営指針は次のように定めています。
通知される内容は、調査の目的・対象となる税目・対象となる期間・対象となる帳簿書類・調査担当者の氏名と所属官署などです。顧問税理士がいる場合は、税理士にも通知されます。
ただし例外があります。適正な調査の遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、事前通知を行わないことがあります。飲食店や小売業など現金商売の事業者に対しては、実際に無予告で来ることがあります。
つまり「突然来た」こと自体は本物でもあり得ます。見るべきは、来訪後に身分証明書が出るか、調査の目的や対象期間をきちんと説明するか、顧問税理士への連絡を拒まないかです。
この「顧問税理士に連絡してよいか」は、実務では有効な確認手段です。本物の調査であれば、税理士への連絡を止める理由がありません。むしろ税務代理人がいる場合は税理士にも通知することになっています。連絡させたがらないなら、そこがおかしいということになります。
最後に、見落とされやすい局面を挙げます。税務調査が終わったあとです。
報道されている事案では、調査が終了した後の期間に現金の受け渡しが続き、その一部については「修正申告書に誤りがあり、新たに税金が発生する」という説明がされていたとされています。調査で一度顔を合わせているため、相手を知っているという安心感が働きやすいのがこの局面の怖いところです。
また、税額に変更が生じる場合には更正の通知書などの書面が出ます。口頭だけで「税金が増えた」と言われて金銭を求められるという流れは、正規の手続きにありません。
顧問税理士に話が来ているか——税務代理人がいれば税理士側にも連絡が行くのが通常です
納付の方法を指定されていないか——現金・振込・ATMを求められたら、そこで止めます
少しでも引っかかったら、顧問税理士か、税務署の総務課に自分で問い合わせるのが確実です。
個人事業主や小規模な会社では、顧問税理士がいないケースもあります。その場合は税務署の総務課、または国税局の納税者支援調整官が問い合わせ先になります。納税者支援調整官は、納税者からの苦情や相談を受け付ける窓口として各国税局に置かれています。
→ 求めるのは法律上の権利
→ 納付書・電子納付で自分が納める
→ 会社として渡さないと決める
→ 相手が教えた番号は使わない
→ 見るのは身分証と説明の有無
→ 書面がないなら止まる
税務調査の連絡が来たとき、何をどこまで用意すればよいのか、社内で判断がつかないことがあります。日々の記帳や資料の整え方についても、第三者に一度見てもらうと整理がつくことがあります。
ココナラで経理・税務の相談をする税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。
情報源: 国税庁「不審なメールや電話にご注意ください」/国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」(平成24年9月12日 課総5-11ほか)/国税庁「国税徴収法基本通達 第147条関係 身分証明書の提示等」/国税通則法第74条の13/国税庁「国税の納付手続」/人事院「国家公務員倫理規程」

