ゴーストレストランは消費税1%で
本当に儲かるのか
減税9%と手数料38.5%を、同じ表の上で計算してみます
ただ、この話にはほとんどの記事が触れていない前提があります。デリバリープラットフォームに乗せた時点で、売上の35%(税込38.5%)が手数料として引かれるという事実です。9%の減税と38.5%の手数料は、同じ売上から引かれる同じ性質のコストです。この2つを1つの表に並べない限り、儲かるかどうかは判断できません。この記事では、その計算を原価率別・業態別にやります。そのうえで、9%を手元に残せる条件が実際に存在するのかを検討します。
閣議決定の原文で何が確定し、何がまだ決まっていないかは、食料品消費税1%が閣議決定|確定したことと未定のことで整理しています。
また本記事に登場する手数料率・参加店舗数・各社の施策は、民間企業のサービス内容であり変更されます。いずれも2026年8月27日時点で確認した公表情報・報道にもとづくものです。実際の契約条件は必ず各社の最新の資料でご確認ください。
報道では混ざって使われていますが、この2つは実店舗を持っているかどうかで区別されるのが一般的です。そしてこの違いは、消費税の計算にも採算にも直結します。
- ゴーストレストラン 実店舗(客席)を持たず、最初からデリバリー専門で開業する業態。厨房はシェアキッチンなどを借りることが多い
- バーチャルレストラン すでに実店舗を営業している飲食店が、自店の厨房を使ってデリバリー専用の別ブランドを立ち上げる形態
- クラウドキッチン 複数のブランドが1つの厨房を共有する仕組み。「ゴーストレストラン」の別称として使われることもあります
すかいらーくホールディングスが2026年8月13日に発表したのは、客席を設けない「ゴーストレストラン」です。「ガスト」「バーミヤン」などのメニューを一度に注文できる形で、東京都を皮切りに首都圏・都市部への出店を検討するとされています。共同通信は「宅配専門店」、産経新聞は「ゴーストレストラン」と、媒体によって呼び方が分かれました。
ゴーストレストラン(客席なし)は、売上がすべてデリバリー・テイクアウトになります。2027年4月以降は原則として1%だけを扱えばよく、税率の区分管理はシンプルです。
バーチャルレストラン(実店舗あり)は、同じ厨房から店内飲食10%とデリバリー1%の両方が発生します。レジ・受注システムで2つの税率を確実に分けて記録する必要があり、区分を誤ると納税額が変わります。仕入れも共通の食材から両方の売上が立つため、按分の考え方が必要になる場面があります。
「税率差9%が取れる」という話の裏側には、この区分管理の手間があります。
この記事は主に「すでに店舗を持っていて、デリバリーの別ブランドを追加しようとしている事業者」、つまりバーチャルレストランを想定して書いています。ただし手数料と原価率の計算はゴーストレストランでも同じですので、これから開業を検討する方にも当てはまります。
結論から書きます。デリバリープラットフォームに乗せる前提でバーチャルレストランを始めるなら、9%の減税はほぼ手元に残りません。理由は単純で、引かれる手数料のほうが桁違いに大きいからです。
- 減税による効果 テイクアウト・デリバリーの税率が8%から1%になる(店内10%との差は9%)
- プラットフォーム手数料 売上の35%(税抜)=税込38.5%が引かれる
- 差し引き 減税9%に対して手数料38.5%。約4倍の開きがあります
減税で起きることは「利益が9%増える」ではなく、「同じ税込価格で売ったときに、店の取り分(本体価格)を増やせる余地が生まれる」です。そしてその余地を実際に取れるかどうかは、価格を自由に決められるかどうかで決まります。ここが本記事の核心です。
ただし、9%を取りにいける条件はあります。それは「税率が下がるから」ではなく、「価格を比較されない状態を作れるから」という理由によるものです。順を追って説明します。
まず手数料の実数です。主要3社を確認したところ、ほぼ同じ水準に収斂していました。
Uber Eatsは公式の料金ページで、配達方法ごとの手数料を公表しています(2026年8月27日確認)。
- Uber の配達パートナーが運ぶ場合 35%
- 自社のスタッフが配達する場合(セルフ配達) 15%
- お客様が店に取りに来る場合(お持ち帰り) 12%
他社も同じ水準です。
- 出前館 配達代行手数料 35%(税抜)+消費税。自社配達なら10%+消費税。別途、決済手数料が最大3.245%(税込)
- ロケットナウ 販売手数料 33〜38.5%(新規加盟は当初一定期間の優遇あり)
3社とも初期費用・月額固定費は0円としており、コストは売上に対する料率で発生します。
配達を誰がやるかで、手数料は3倍近く変わります。そして店頭受取まで下げれば12%です。
この差こそが、9%の減税を手元に残せるかどうかの分かれ目です。詳しくは記事の後半で扱いますが、結論を先に言えば「プラットフォームに配達まで任せた瞬間、減税分は消える」ということです。
誤り:店内1,000円 × 1.35 = 1,350円で出品 → 手数料35%(473円)が引かれて手残り877円。店内の1,000円を下回ります。
正しい式:店内価格 ÷ 0.65 = デリバリー売価
1,000円 ÷ 0.65 = 約1,539円(約54%の上乗せ)。ここまで乗せて、ようやく店内と同じ手取りになります。
掛け算ではなく割り算です。「35%引かれるなら35%乗せればいい」という直感が、そのまま損失につながります。
なお、デリバリー価格を店頭より高く設定すること自体は、規約上禁止されていません。店舗側が自由に価格を設定できるのが原則です。実際、国内では従来デリバリー価格が店頭より3〜4割高いのが通例でした。上乗せは業界の標準的な運用です。
ところが2026年に入って、この前提が揺らぎ始めました。次の項目で説明します。
2026年3月、Uber Eatsと出前館がそろって「アプリ上の価格を店頭と同じにする」施策を本格展開しました。
- Uber Eats「お店と同じ価格」 2026年3月20日開始。開始時点で全国約18,000店が対象で、その後さらに拡大したと報じられています
- 出前館「お店価格で出前館」 2025年秋に地方都市で試験導入、2026年2月に1都3県で本格導入、2026年3月1日から全国展開。開始時点で1万店以上
参加店舗数は日々増えています。本記事の数字は各社の発表時点のものですので、最新の規模は各社の公表資料でご確認ください。重要なのは店舗数そのものではなく、「増え続けている」という方向です。
ここで多くの人が誤解します。「プラットフォームが手数料を下げてくれるのだろう」と考えてしまうのです。そうではありません。
Uber Eats広報は、この施策について「加盟店様のご理解とご協力のもとで実現している」と説明しています(Yahoo!ニュース エキスパート・山口健太氏の取材)。
出前館についても、店舗が手数料負担を自社で吸収する形で実現しており、利益は「注文数の増加で相殺する前提」と解説されています。
つまり「店頭と同じ価格」とは、これまで上乗せしていた分の粗利を、店が放棄する施策です。プラットフォームが原資を出しているわけではありません。
参加は任意です。参加しなければ、従来どおり上乗せ価格で出品できます。両社とも「参加しなければ出品できない」といった発表はしておらず、2026年8月27日時点でも、強制に切り替わったという公表は確認できません。
ただし私は、これは時間の問題だと見ています。両社とも参加店に「お店価格」のバッジを付けて消費者に訴求しており、同じ商品が並んだとき、高いほうが選ばれる理由はありません。制度として強制されなくても、参加しない店から注文が減っていけば、実質的には強制と変わりません。「任意だから関係ない」と考えるのは危険です。
ただ、私はこの方法は勧めません。理由は3つあります。
ひとつ目は、デリバリーを使わないお客様にまで値上げの負担がいくことです。店内で食べているお客様にとって、値上げの理由は「デリバリーの手数料」です。納得のしようがありません。
ふたつ目は、失うものの大きさが釣り合わないことです。デリバリーの手数料を回収するために店頭価格を上げて、常連のお客様が離れてしまえば、本業の売上が減ります。手数料の負担より、客足が遠のく損失のほうがはるかに大きくなりかねません。
みっつ目は、値上げは元に戻せないことです。デリバリーの出品はやめれば終わりますが、一度上げた店頭価格を下げるのは簡単ではありません。撤退できる施策と、撤退できない施策を同じ天秤に載せるべきではないというのが、私の考えです。
店頭価格の改定は、原材料費や人件費など自店のコスト構造にもとづいて判断するものです。デリバリーの採算はデリバリーの中で解決する。これが順番だと考えています。
ここからが本題です。手数料38.5%が重いかどうかは、原価率によって答えが変わります。1,000円の商品を店頭と同じ価格でデリバリーに出した場合で計算します(手数料35%、容器代50円で計算)。
■ 売価1,000円・店頭と同じ価格で出した場合
手数料を引いた入金は、どの原価率でも650円です。そこから原価と容器代を引いた残りが、下の数字になります。
- 原価率 25% 650円 - 原価250円 - 容器50円 = 手残り 350円
- 原価率 30% 650円 - 原価300円 - 容器50円 = 手残り 300円
- 原価率 35% 650円 - 原価350円 - 容器50円 = 手残り 250円
- 原価率 40% 650円 - 原価400円 - 容器50円 = 手残り 200円
- 原価率 45% 650円 - 原価450円 - 容器50円 = 手残り 150円
ここには人件費・水道光熱費・家賃が一切入っていません。調理の手間も配達準備の手間も、この150円から350円の中から賄うことになります。原価率45%の業態では、1件作っても150円しか残らないという現実が見えます。
次に、上乗せ価格で出した場合と比べます。
■ 原価率30%・店頭1,000円の商品を、いくらで出すか
- 店頭と同じ 1,000円 入金650円 - 原価300円 - 容器50円 = 手残り 300円
- 20%上乗せ 1,200円 入金780円 - 原価300円 - 容器50円 = 手残り 430円
- ÷0.65 の 1,539円 入金1,000円 - 原価300円 - 容器50円 = 手残り 650円
同じ商品でも、いくらで出すかによって手残りは2倍以上変わります。÷0.65まで乗せれば、店内で売ったときと同じ手取りになります。
別の試算では、店頭同一価格への切り替えによる減益を1注文70円・月300件で月21,000円と見積もる例もあります。前提の置き方で幅は出ますが、「無視できる差ではない」という結論は共通しています。
そして消費税1%の話に戻ります。減税で本体価格を9%引き上げられたとしても、1,000円の商品なら90円前後です。上の計算で言えば、上乗せ価格を取れるかどうかの差(130円から350円)のほうが、減税の効果よりも大きいのです。これが「9%は手数料に飲まれる」の実態です。
業態別の試算が公表されています。限界利益率(売上から変動費を引いた割合。固定費を回収する原資になります)で比べると、業態差がはっきり出ます。
- ラーメン店 単価1,200円・原価率30% → 変動費66.5%、限界利益率 33.5%
- カフェ 単価1,800円・原価率35% → 変動費72%、限界利益率 28%
- 居酒屋 原価率45% → 変動費約82%、限界利益率 18%
同じ居酒屋でも、デリバリー専用メニューに切り替えて原価率を45%から35%に下げ、価格を15〜20%高く設定したところ、限界利益率は28%まで回復したという改善例が報告されています。業態そのものより、「何を、いくらで出すか」の設計で決まるということです。
デリバリーは「単品を安く売る」場所ではありません。単価が低いほど、固定的にかかる容器代と手間が重くのしかかるからです。スイーツとドリンクを組み合わせるなどして、単価1,500円から2,000円以上を狙う設計に変えてください。
私が目安にしているのは原価率40%です。ここを超えるメニューは、デリバリーに載せても手元にほとんど残りません。25%以下なら積極的に載せる、26%から35%ならメインとして使える、40%超は載せない——この3つに仕分けるところから始めてください。価格をいくらにするか考えるより先に、そもそも載せていい商品なのかを見極めるほうが重要です。
居酒屋の例が示すのは重要な事実です。原価率45%のまま出すと限界利益率18%ですが、デリバリー専用メニューに切り替えて原価率を下げ、価格を15〜20%上げることで28%まで回復しています。つまり「何を、いくらで出すか」を作り替えれば、収支は変えられるということです。
ここまでの計算を踏まえると、9%を手元に残せる条件が見えてきます。
ところがバーチャルレストランは別ブランド・別メニューです。比較対象が存在しません。「あの店の店頭より高い」という比較そのものが成り立たないため、手数料を織り込んだ価格設定がしやすくなります。
つまりバーチャルレストランの価値は「9%の減税」ではなく、「価格を比較されない状態を作れること」にあります。減税はきっかけにすぎません。
この考え方は、飲食業の現場でも同じ方向で語られています。同一価格施策への対応として「店頭価格と比較されないデリバリー専用のセット商品を開発する」こと、黒字化の手段として「同一の厨房で複数ブランドを運営し、追加コストをかけずに受注数を増やす」ことが挙げられています。比較されない状態をつくり、厨房という固定費を使い回す。この2つが揃ったとき、デリバリーははじめて事業として成立します。
もうひとつの道が配達を自分たちでやることです。前半で見たUber Eatsの料金表を思い出してください。配達代行35%に対し、自社スタッフが配達すれば15%、店頭受取なら12%。出前館も自社配達は10%+消費税です。
手数料が35%から12〜15%に下がれば、その差は20%以上。減税9%の倍以上です。自社のモバイルオーダーや予約システムを使えば、手数料はさらに下がります。9%の減税をそのまま粗利にできるのは、配達までプラットフォームに預けないチャネルだけです。
もちろん、自社配達には人件費と配達員の確保という別のコストがかかります。「手数料が安いから自社配達にすべき」と単純には言えません。ただ、注文が一定量あって配達エリアが狭い店なら、計算する価値は十分にあります。まずは自店の注文数と配達距離で試算してみてください。
・menu(KDDI)が2026年9月30日でサービス終了。menu株式会社は解散・清算へ。2026年1月にエリアを拡大したばかりでの撤退でした
・Woltが日本から撤退
・出前館は7期連続の赤字と報じられています
・Uber Eatsは中小・個人向けのバーチャルレストラン新規受付を2026年6月30日で終了しました
市場規模そのものはコロナ前(2019年)比で約2倍の水準を維持しており、縮小しているわけではありません。ただし成長率は鈍化し、年0%から2%程度との慎重な予測も出ています。「特需は終わったが市場は残った。伸びない市場で椅子取りゲームが始まった」という局面です。
専門家は、Uber Eatsの同一価格施策を「出前館からシェアを奪い、業界シェア7割に到達させるため」の動きと分析しています。プラットフォーム間のシェア争いの原資を、加盟店が価格で負担している構図だと理解しておくべきです。
そして経理の視点から、もうひとつ。消費税1%は2027年4月に始まり、2029年3月末で8%に戻る時限措置です。レジや受注システムの税率設定は2回変更が必要になる可能性があります。バーチャルレストランを立ち上げるなら、この2回の改修コストも初期の見積もりに入れてください。詳しくは消費税1%のレジ対応|今すぐ買い替えるべきかで整理しています。
実店舗ありは2税率の管理
約4倍の開きがある
×1.35では赤字になる
負担しているのは店
人件費・家賃は別途
自社チャネルなら10%台
「消費税が1%になるからデリバリーが得になる」という話は、手数料を計算に入れた瞬間に成り立たなくなります。9%の減税に対して、プラットフォーム手数料は38.5%。減税分は、そのほとんどが手数料に飲まれます。
それでもバーチャルレストランに意味があるとすれば、それは減税そのものではなく、別ブランドにすることで「店頭価格と比較されない」状態を作れる点にあります。比較されなければ、手数料を織り込んだ価格設定ができる。取りにいけるのは税率差ではなく、価格の自由度です。
判断の順番はこうです。1つ目に自店のメニューを原価率で仕分ける(40%超は対象外)。2つ目にデリバリー専用の商品構成と価格を設計する。3つ目にプラットフォームに乗せるか自社チャネルにするかを決める。この順番を飛ばして「減税が来るから始める」と判断すると、手数料の計算が最後まで合いません。
原価率・単価・想定件数を入れてみないと、デリバリーやバーチャルレストランが黒字になるかは分かりません。「この価格設定で本当に残るのか」「消費税1%で納税額はどう動くのか」——自店の数字に当てはめた計算を、税理士事務所の実務目線で一緒に整理します。
