経理担当を狙うビジネスメール詐欺(BEC)とは?振込先変更メールの見抜き方と対策

経理担当を狙うビジネスメール詐欺(BEC)とは?振込先変更メールの見抜き方と対策 日常業務
経理のリスク対策

経理担当を狙う「ビジネスメール詐欺(BEC)」とは?
振込先変更メールの見抜き方と対策

狙われるのは社長でもシステム担当でもなく「お金を動かせる経理」。AIで文面は見抜けない時代に

! 振込先変更メール 送金前の確認 電話で本人確認 送金ストップ 被害ゼロ 最後の砦は「メール以外での確認」
「取引先から『振込先口座が変わりました』というメールが届いた」——経理をしていれば珍しくない連絡ですが、これがビジネスメール詐欺(BEC: Business Email Compromise)の入口かもしれません。取引先や自社の経営者になりすましたメールで送金させる詐欺で、狙われるのはずばり、お金を動かす権限を持つ経理担当者です。2026年7月にもメール基盤サービスへの不正アクセスで125万件超のメールアドレス漏えいが報じられるなど、なりすましの「材料」となる情報流出は続いています。この記事では、BECの手口、あやしいメールの見抜き方、経理として今日からできる対策、そして万一被害にあったときの動き方(お金の処理まで)を整理します。
POINT01
ビジネスメール詐欺(BEC)とは? 代表的な手口は5つ
IPAの「情報セキュリティ10大脅威」に9年連続で選ばれている定番の脅威

ビジネスメール詐欺とは、業務メールのやり取りを盗み見たうえで、取引先や経営者になりすましたメールを送り、偽の口座へ送金させる詐欺です。IPA(情報処理推進機構)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編でも10位に入っており、2018年から9年連続の選出。一過性の流行ではなく、ずっと狙われ続けている「定番」の脅威です。

代表的な手口は次の5つに分類されています。

BECの代表的な手口(IPAの分類をもとに整理)
  • ① 取引先との請求書の偽装: 実際の取引のやり取りに割り込み、本物そっくりの請求書で「振込先が変わった」と偽の口座を案内する。経理が最も遭遇しやすい型
  • ② 経営者へのなりすまし: 社長や役員を名乗り、「極秘の買収案件だ。至急この口座へ」などと担当者に直接送金を指示する
  • ③ 乗っ取ったメールアカウントの悪用: 本物のメールアドレスそのものを乗っ取って請求を送るため、アドレスを確認しても見抜けない
  • ④ 社外の権威ある第三者へのなりすまし: 弁護士や会計士などを名乗って「手続きに必要」と送金や情報提供を求める
  • ⑤ 詐欺の準備行為としての情報詐取: すぐにはお金を要求せず、まず担当者名・取引内容・決裁フローなどを聞き出し、後日の詐欺に使う
⚠ 「日本語が不自然だから見抜ける」は過去の話
かつては「日本語がぎこちないから分かる」と言われていましたが、生成AIの普及で自然な日本語のなりすましメールが簡単に作れるようになりました。IPAも生成AIによる巧妙化を指摘しています。文面の自然さで判断する方法は、もう通用しないと考えてください。
⚠ 「税理士・司法書士のなりすまし」も実際に起きています
手口④は絵空事ではありません。国税庁は、税理士を名乗って「高額の還付金があります」などと連絡してくる偽メール(送り主が税理士名簿に登録のない「にせ税理士」だった事例)への注意を呼びかけています(国税庁タックスアンサーNo.9204)。司法書士会や法律事務所からも、実在の氏名・事務所名を騙った不審メールへの注意喚起が相次いでいます。顧問の税理士・司法書士からのメールに見えても、身に覚えのない添付ファイルや口座の案内は、開く前・振り込む前に事務所へ電話で確認してください。名乗っている税理士が本物かどうかは、日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」で登録の有無を確認できます。
POINT02
なぜ経理が狙われるのか。被害は「数億円」クラスも
攻撃者から見れば、経理は「会社のお金への最短ルート」

BECの標的が経理担当者に集中するのには、明確な理由があります。

  • 送金の実行権限を持っている: システムに侵入しなくても、経理を1人だませば送金が完了する
  • 請求書・振込依頼を日常的に受け取る: 「支払いの連絡」が来ること自体に違和感がなく、業務フローに紛れ込みやすい
  • 月末・支払日前は忙しい: 処理を急ぐタイミングを狙えば、確認を省略させやすい

被害は決して小さくありません。国内では、大手航空会社が偽の請求書メールにだまされ約3.8億円を送金してしまった事例が2017年に公表されています。また、冒頭で触れたとおり、2026年7月にはメール基盤の脆弱性悪用による125万件超のメールアドレス漏えいや委託先経由の不正アクセスが報じられました。漏えいしたアドレスや取引情報は、なりすましメールの「宛先リスト」や「文面の材料」になります。自社が漏えいさせていなくても、取引先やサービスの委託先から漏れれば標的になり得る——これが今のBECの怖さです(IPAの10大脅威2026でも「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」は2位に入っています)。

✓ 中小企業こそ他人事ではない
「うちは小さい会社だから狙われない」は誤解です。むしろ承認フローが少人数で完結し、1人が申請から送金までできてしまう中小企業のほうが、だます相手が少なくて済むため、攻撃者にとって効率のよい標的になります。
POINT03
あやしいメールのサインと、今日からできる対策
見抜く目より「送金前にワンクッション入れる仕組み」が効く

まず、BECメールによく見られる危険サインです。1つでも当てはまったら、送金処理を止めて確認に回してください。

こんなメールは要警戒(典型的な危険サイン)
  • 「至急」「本日中に」と送金を急かす(確認する時間を与えないのが狙い)
  • 「この件は社内には内密に」と口止めする(相談されると詐欺がバレるため)
  • 送信元ドメインが本物と1文字違い(例: 「-」の有無、綴りの入れ替え、.co.jpと.comの違い)
  • いつもと違う口座への変更依頼(特に海外口座・会社名と関係ない個人名義の口座)
  • 表示上の差出人と返信先(Reply-To)のアドレスが違う

ただし、手口③のようにアドレスが本物のケースもあるため、「見抜く」ことだけに頼るのは危険です。効くのは、個人の注意力ではなく業務フローで止めることです。

経理として今日からできる対策
  • 振込先の変更依頼は、メール以外の経路で本人確認する: 事前に登録してある電話番号へこちらから電話する。メールに書かれた電話番号は偽物の可能性があるので使わない
  • 申請者と承認者を分ける: 新規口座・口座変更・高額送金は、必ず別の人の承認を挟む。1人で完結させない
  • 取引先マスタの口座変更に証憑(しょうひょう)を必須にする: 口座変更の依頼書など書面を受け取り、変更履歴を残す
  • メールアカウントに多要素認証を設定する: 乗っ取り(手口③)の入口をふさぐ。身に覚えのない転送設定がないかも定期的に点検する
  • 「急ぎ・内密は典型サイン」を社内で共有する: 対策は経理1人で抱えず、経営者・営業も含めて周知する。だまされかけた事例こそ共有する
✓ 電話確認は「コスト」ではなく「保険」
電話1本の手間で防げる被害が数百万〜数億円です。取引先に対しても「当社は口座変更時に必ず電話で確認します」とあらかじめ伝えておくと、確認の電話が失礼になることもなく、取引先が狙われた場合の防波堤にもなります。
POINT04
送金してしまったら? 初動と「だまし取られたお金」の経理処理
最初の数時間が勝負。連絡の順番を決めておく

万一送金してしまった場合は、時間との勝負です。相手の口座からお金が引き出される前に、次の順番で動きます。

被害に気づいたときの初動(時系列)
  • ① 振込先の銀行と自社の銀行に連絡する: 「組戻し(くみもどし。振込の取消依頼)」と口座の凍結を相談する。海外送金の場合は特に一刻を争う
  • ② 警察に相談・通報する: 最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口へ。急がない相談は警察相談専用電話「#9110」も使える
  • ③ 社内と取引先に連絡する: なりすまされた取引先にも事実を伝える。自社のメールが乗っ取られていた場合は、パスワード変更・転送設定の削除など対処する
  • ④ 証拠を保全する: 詐欺メール本体(ヘッダー情報含む)・振込記録・やり取りの経緯を消さずに保管する。警察への届出や後述の経理処理の根拠になる

そして経理としては、だまし取られたお金の処理という問題が残ります。

  • 法人の場合: 詐欺による損失は、一般に回収の見込みがないことが明らかになった事業年度に損失(雑損失など)として損金算入を検討します。ただし、回収可能性や損失が確定した時期の判断は個別性が強いため、税理士への相談が前提です
  • 個人の場合の注意点: 所得税の雑損控除は「災害・盗難・横領」が対象で、詐欺や恐喝による損失は対象外とされています。「詐欺被害だから控除できるはず」と思い込まないよう注意してください
  • 本来の支払先への支払義務は残る: 偽口座に振り込んでも、本物の取引先への買掛金が消えるわけではありません。二重払いの資金繰りまで含めて影響を整理する必要があります
⚠ 「取り返せるか」より「すぐ動けるか」
組戻しは相手口座から引き出される前でなければ間に合いません。被害額の大小にかかわらず、「気づいたら誰が・どこへ・何を連絡するか」を平時に決めておくことが、実質的な回収率を左右します。上の①〜④を印刷して支払担当の手元に置いておくだけでも初動が変わります。
まとめ: BEC対策は「メール以外での確認」がすべて
POINT 01
BECは9年連続の定番脅威
→ 請求書偽装・なりすましなど手口は5類型
POINT 02
狙われるのは経理
→ 中小企業ほど「1人で送金できる」が弱点
POINT 03
仕組みで止める
→ 口座変更は電話確認・承認は2人体制
POINT 04
被害時は時間勝負
→ 銀行へ組戻し依頼、経理処理は税理士に相談

AIの進化で「あやしい日本語」は消え、漏えいしたメール情報でなりすましの精度も上がっています。それでも、「振込先の変更は、メール以外の経路で確認してから」というルールを1つ守るだけで、BECの大半は防げます。高価なセキュリティ製品より先に、まず支払フローにワンクッションを入れるところから始めてください。

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この記事は、2026年7月時点のIPA(情報処理推進機構)の公表情報および報道をもとに、経理実務の目線で一般的な対策を解説しています。記載の被害事例は各社の公表・報道によるものです。セキュリティ対策の要否や、詐欺被害にあった場合の損失の税務処理は個々の状況によって判断が分かれるため、実際の対応にあたっては警察・金融機関・税理士など各専門窓口に必ずご相談ください。
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