合同会社の設立で後悔する人・しない人
分かれ目は「取引先が誰か」です
税理士事務所で見てきた、実際に困ったケースと・まったく問題なかったケース
- 個人のお客様が中心なら、合同会社で困る場面はほとんどありません
- 大企業と直接取引する予定・人を採用する予定があるなら、先に確認すべきことがあります
- 「信用が低い」は漠然と怖がる話ではなく、相手が誰かで有無が決まる話です
- 迷ったら、あとから株式会社に変更できます(費用はかかります)
合同会社のデメリットとして最初に挙げられるのが「社会的信用が低い」です。ただこの表現は漠然としていて、これだけでは自分に関係あるのか判断できません。実務で見てきた範囲では、信用の差が表に出る場面は限られています。
- 大企業と直接取引する → 取引先の社内規程で取引相手の会社形態や資本金に条件がある場合があります
- 新卒・若手を採用する → 応募者本人より、その家族に説明が必要になることがあります
- 金融機関から多額の融資を受ける → 会社形態そのものより事業計画と実績が重視されますが、規模が大きくなるほど説明の手間は増えます
- 個人のお客様向けの事業 → 飲食・美容・教室・小売など。お客様が会社形態を気にする場面はまずありません
- ネット上での物販・サービス提供 → 表示義務があるのは会社名や住所であって、形態による不利はありません
- 少人数で回す受託業務 → 相手が中小企業や個人であれば、問題になった例は見ていません
合同会社の利点として確実なのが設立費用です。ここは感覚の話ではなく、法律で金額が決まっています。
- 株式会社の設立登記/資本金の額の1000分の7。計算額が15万円に満たないときは15万円
- 合同会社の設立登記/資本金の額の1000分の7。計算額が6万円に満たないときは6万円
つまり資本金が小さい場合、登記の段階で9万円の差が出ます。
- 株式会社/会社法30条により、定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じません。認証の手数料が別途かかります
- 合同会社/会社法575条は「社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印する」と定めるのみで、認証は求められていません
ただしこの差を過大に評価しないでください。東京商工リサーチの調査(2023年6月公表)によると、2022年に官報で決算公告を行った株式会社は4万214社で、実施率は1.8%にとどまります。「株式会社にすると毎年公告費用がかかる」という説明を見かけますが、実際にその費用が発生している会社は少数派です。義務の有無は違いますが、費用の差として期待できるものではありません。
税理士事務所で関わった中で、合同会社であることが実際に問題になった場面を3つ挙げます。どれも設立の時点では想像しにくく、あとから出てきたものです。
会社と聞いて多くの人が思い浮かべるのは株式会社です。そのため「合同会社」という名前を見て、誰かと共同でやっている会社なのか、そもそも会社なのかと受け取られることがあります。実際に、お客様から「誰と一緒にやられているんですか」「合同会社って何ですか」と聞かれた会社がありました。
この会社は表に出す屋号を別に用意していたのですが、それがかえって裏目に出ました。請求書や契約書には正式名称を書く必要があるため、取引が進んだ段階で初めて「合同会社○○」という名前を見たお客様に、より強く不審がられたそうです。取引そのものに支障はなくても、説明の手間が増えるという話でした。
株式会社では、株主総会の決議で役員を選任・解任できます。就任する本人が株を持っている必要はありません。一方、合同会社は会社法590条により「社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」とされ、業務を執行する立場と出資が結びついています。
そのため出資していない人を役員にできません。ある会社では「この人を役員にしたいが、出資していないのでできない」という形で問題になりました。代表を交代する場合も、出資してもらうか持分を買い取る必要があります。
ここが3つの中で最も見落とされやすく、影響が大きい点です。
会社法607条1項3号は、社員の死亡を退社の事由として定めています。そして608条1項は「持分会社は、その社員が死亡した場合……当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる」としています。
つまり定款にこの定めを置いていなければ、持分は相続されません。相続人が受け取れるのは、611条による持分の払戻しです。
家族に引き継ぐ可能性が少しでもあるなら、設立時の定款にこの定めを入れておくかどうかを必ず検討してください。あとから気づいても、その時点で定款を変更できる状況とは限りません。会社をめぐる相続は揉めることが多い領域です。定款の具体的な文言は、司法書士や弁護士にご相談ください。
検索すると失敗談ばかりが目に入りますが、実際には何事もなく続いている合同会社のほうが多数です。困った話は記事になりやすく、問題がない話はわざわざ書かれないためです。
- お客様が個人/飲食店・美容室・教室・整体など。会社形態を尋ねられた場面自体がほぼありません
- 1人または家族だけで運営/意思決定で揉める構造がそもそもありません
- 取引先が中小企業や個人事業主/相手側にも形態による制限がなく、話題にすら上がりません
- 大きな借入や外部からの出資を予定していない/資金調達の選択肢の差が実際には効きません
この条件に当てはまるなら、「やめとけ」という言葉は自分向けではないと考えて差し支えありません。ネット上の失敗談は、多くが規模拡大や共同経営を前提にした話です。
- ミニマム法人・マイクロ法人として設立する
- すでに株式会社があり、サブ的な位置づけで設立する
- 1人会社として運営していく
- お試しで起業してみる
「選び間違えたら取り返しがつかないのでは」という不安が、判断を止めている一番の原因かもしれません。結論として、合同会社から株式会社への変更はできます。組織変更という手続です。
- 組織変更計画を作り、社員全員の同意を得る
- 債権者に対する手続(官報公告など)を行う。ここに一定の期間が必要です
- 合同会社の解散の登記と、株式会社の設立の登記を行う
したがって現実的な考え方は、「数年先まで見て、大企業との取引や採用の予定がないなら合同会社で始める」「その予定が既にあるなら最初から株式会社にする」というものです。可逆ではあるが、無料ではありません。
ここまでの内容を、設立前のチェックとしてまとめます。すべて「調べれば分かること」です。不安のまま進めるのではなく、ひとつずつ確認してください。
- 取引したい会社は決まっているか/決まっているなら、その会社に会社形態の条件があるかを直接確認する
- 3年以内に人を採用する予定があるか/新卒や若手の採用を考えているなら、説明の手間が増えることを見込んでおく
- 将来、家族や第三者に引き継ぐ可能性はあるか/少しでもあるなら、相続に関する定款の定めを設立時に検討する
- 出資していない人を役員にする予定はあるか/あるなら、合同会社では対応できないため形態から見直す
- 大きな借入や外部出資を予定しているか/予定があるなら、金融機関に事前相談したうえで形態を決める
→ 困る場面はほぼない
→ あるなら事前に確認
→ あるなら相続の定款規定を
合同会社で後悔するかどうかは、事業の中身ではなく「誰と取引し、誰を雇い、誰に引き継ぐか」で決まります。設立費用が安いことは確かな利点ですが、それは最初の一度だけの差です。判断の軸は費用ではなく、これから関わる相手に置いてください。
最後に、実際に聞いた言葉をひとつ。デメリットの話をしてくれた会社は、「こんなに大きくなるとは思わなかった。株式会社にしておけばよかった」と言っていました。事業がうまくいった結果の悩みなので嬉しい誤算ではあるのですが、設立の時点でどこまで大きくなるかを見通すのは簡単ではありません。だからこそ、費用の差だけで決めずに、この記事で挙げた点を一度確認しておいてください。
「この事業なら法人にすべきか」「役員報酬はどう決めるのか」「設立後の帳簿は何から始めるのか」——設立の前後は、調べても答えが出にくい疑問が一度に出てきます。税理士事務所での実務経験をもとに、こうした疑問にお答えしています。
※登記や定款そのものの手続は司法書士の業務です。経理・税務まわりのご相談を承っています。

