個人事業主のまま続けるか、法人にするか
判断の材料は税金だけではありません
税理士事務所で、どういうときに法人化を勧めてきたか
- 所得税は最高45%、中小法人は年800万円以下が15%。この差が法人化を検討する出発点です
- ただし法人は赤字でも均等割がかかります。税金がゼロになる年はありません
- 税理士費用が年間20万円前後から発生します。税額の差がこれを上回るかが分かれ目です
- 見落とされやすいのが出口。清算や世代交代のときに手間と費用がかかります
個人事業主と法人では、税金のかかり方の仕組みそのものが違います。
- 個人事業主/利益のすべてが所得となり、所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料などがかかります
- 法人/会社の利益に法人税・法人住民税・法人事業税がかかり、そこから受け取る役員報酬に所得税・住民税・社会保険料がかかります
ポイントは、法人は「会社に残す利益」と「自分が受け取る役員報酬」に分かれることです。個人事業主は利益の全部が課税対象なので、この調整ができません。
195万円以下 5% → 330万円超 20% → 900万円超 33% → 4,000万円以上 45%
法人税(タックスアンサーNo.5759)の資本金1億円以下の中小法人は、
年800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.20%(令和7年4月1日以後に開始する事業年度で所得10億円超の場合、800万円以下の部分は17%)。
所得税の税率が上がっていくのに対し、法人税はそれより低い率で止まります。この差が、法人化を検討するきっかけになります。
どの時点で法人のほうが有利になるかは、事業の規模・利益・家族構成によって変わります。目安の金額を鵜呑みにせず、具体的な試算は税理士にご相談ください。税額の計算は税理士の独占業務です。
税率の話ばかりが注目されますが、実務でいちばん効いてくるのはこちらだと感じています。
個人事業主が赤字になった場合、所得税や住民税はかかりません。国民健康保険料や国民年金も、軽減や免除を受けられる場合があります。収入がないのだから当然です。
ところが法人は赤字でも、所在地の都道府県と市区町村に税金が発生します。これを均等割といいます。
金額は自治体によって異なるため、設立を予定している市区町村と都道府県のウェブサイトでご確認ください。
事業を始めたばかりの時期や、役員報酬の設定で赤字になる年には、この負担が重く感じられます。
個人事業主なら「今年は苦しかったが、税金はほとんどかからなかった」で済むところが、法人だと赤字でも支払いが発生する。この違いは、資金繰りが厳しい時期ほど響いてきます。
法人は設立の段階から費用がかかります。登記が必要になるためです。
- 個人事業主/税務署に届出を出すだけ。費用はかかりません
- 法人/法務局での登記が必要。自分で行うこともできますが、司法書士に依頼するのが一般的で、登録免許税を含めて30万円前後が目安になります(会社の形態や依頼先によって異なります)
ただし、設立費用は最初の一度だけです。判断により大きく影響するのは、次の毎年かかるほうです。
法人にはこれがありません。法人税の申告書は別表と呼ばれる書類が多数あり、専門の知識か申告書作成用のソフトが必要になります。適用できる規定を漏らすと、納める税額が変わることもあります。
結果として税理士に依頼することになり、顧問料として年間20万円前後からの出費が発生します(記帳まで任せる場合は取引量に応じて増えます)。金額は事務所によって差があるため、契約前に必ず確認してください。
ただし社宅では賃料相当額を受け取る必要があり、その計算には固定資産税評価証明書などが必要になります。判断が分かれる部分もあるため、個別に税理士へご相談ください。
ここまで税金と費用の話をしてきましたが、実際の相談では税金以外が決め手になることが少なくありません。
- 取引先の条件/法人でないと発注しない、という取引先が増えています。仕事を受けるために法人にするというケースです
- 社会的な信用/法人は登記により実在と代表者が公示され、名称や所在地の変更にも登記が必要です。個人事業主より情報が確認しやすい形になっています
- 融資や補助金/法人のほうが有利とされることがあります。ただし近年は法人でも審査は厳しく、個人保証を求められることもあるため、これだけを理由に法人化する場面は多くありません
一方仕事を受けるために必要なら、税額の比較は二の次です。法人化しなければ売上そのものが立たないので、比較する土台がありません。
まず「どうして法人にしたいのか」をはっきりさせると、判断すべきことが絞れます。
ただし個人が連帯保証人になっている借入は対象外です。中小企業の融資では代表者の保証を求められることが多く、実際には個人の責任が残る場面があります。「法人にすれば安心」と単純化しないでください。
法人化の相談で、いちばん説明が抜けやすいのがここです。始めるときの話ばかりで、辞めるときの話が出てきません。
- 個人事業主/廃業の届出を出すだけで済みます
- 法人/解散の登記が必要で、司法書士への依頼費用がかかります。会社に残った資産の分配についても計算が必要になり、分配を受けた側に税金がかかります
会社に資産が貯まると、それに応じて1株あたりの株価も上がります。そして世代交代や相続で株式を渡すときに、その株価をもとに税負担が生じることになります。出資したときの額面で渡せるとは限りません。
個人事業であれば、事業用資産の引き継ぎという形になり、株価の算定という論点自体が発生しません。次の代に引き継ぐ予定があるなら、法人化の段階でこの点まで含めて検討しておく価値があります。評価方法や対策は事案ごとに異なるため、税理士にご相談ください。
法人化すると、事業で得たお金は会社のものになります。自分が株主であっても、会社から個人へお金を移す方法は役員報酬が基本で、ほかには配当などに限られます。それ以外で引き出すと会社からの貸付金という扱いになり、利息の問題も生じます。
役員報酬は原則として期の途中で自由に変更できません。設定の段階で、生活に必要な金額まで含めて考えておく必要があります。
これまでの内容を、確認する項目としてまとめます。
- ① 年間の利益と、税額の比較/個人と法人で、どちらが有利になりそうか
- ② 設立費用を回収できる見込みがあるか/初期費用と毎年の税理士費用を含めて
- ③ 個人事業主のままで仕事を受注できるか/取引先に条件がないか
- ④ 経理を自分でやるか、依頼するか/依頼するなら費用がいくらか
- ⑤ 社長という肩書きが必要な場面があるか/採用や取引の場面で
- ⑥ 何年くらい事業を続ける見込みか/短期なら設立費用が重くなります
- ⑦ 次の代に引き継ぐ予定があるか/あるなら株価の問題を先に把握しておく
ただしすでに取引先が決まっていて、法人であることが条件になっている場合は、最初から法人という判断もあります。どちらが正解ということはなく、何を優先するかで変わります。
合同会社を検討していて不安がある場合は、合同会社の設立で後悔する人・しない人もあわせてご覧ください。
→ ただし数字だけでは決まらない
→ 均等割と税理士費用
→ 清算・世代交代の負担
法人化の判断は、税率の比較から始まりますが、そこだけでは決まりません。赤字でもかかる均等割、毎年の税理士費用、そして辞めるときや引き継ぐときの負担。これらを含めて受け入れられるかどうかが、実際の分かれ目です。まず「どうして法人にしたいのか」をはっきりさせてから、専門家に具体的な試算を依頼してください。
「自分の場合はどこを重視すべきか」「法人化したら経理は何が変わるのか」——具体的な税額の試算は税理士の業務ですが、その前段階の整理でつまずく方は少なくありません。税理士事務所での実務経験をもとに、考え方の整理をお手伝いしています。
※具体的な税額の計算・申告書の作成は税理士業務のため承っておりません。経理の考え方の整理についてのご相談を承っています。

