所得は7.3%増、でも「生活が苦しい」55.4%。
税収過去最高84兆円の中身を経理目線で分解する
賃上げ・物価・税金・社会保険料——2026年7月に並んだ数字をつなげると、何が見えてくるのか
今回の調査の「所得」は2024年1年間のものです。2024年に何があったかを思い出すと、7.3%増の出どころが見えてきます。
- 春闘の賃上げ率5.1%: 1991年以来33年ぶりに5%を超えた、いわゆる「賃上げ元年」だった
- 最低賃金の大幅引き上げ: 2024年10月に全国平均1,055円へ(約5%増)。パート・アルバイトの時給にも波及した
- 企業収益の拡大: 円安による輸出企業の収益増や値上げの浸透が、賃上げの原資になった
つまり7.3%増は実態のある数字です。ただし、ここで経理的に大事な区別があります。これらはすべて「名目」(金額の額面)の話だということです。給与が5%増えても、物価がそれ以上に上がれば、買えるものの量(実質)はむしろ減ります。実際、毎月の統計である実質賃金は、この物価高の期間中マイナス基調が長く続いてきました。
所得が7.3%増えたのに55.4%が「苦しい」と答える。このギャップは、主に3つの側面から説明できます。
- 食料品や光熱費など、生活に欠かせない品目ほど値上がりが続いた。生活必需品の割合が高い世帯ほど、物価高の打撃は大きい
- 名目の所得が増えても、物価上昇に追いつかなければ手元の豊かさは増えない
- 所得に対する税金と社会保険料の負担割合を示す国民負担率は、2025年度で46.2%の見通しと財務省が公表している(2026年度の見通しは45.7%)
- 給与が上がると、所得税(累進課税)や社会保険料もそれに応じて増える。賃上げ分がまるごと手取りに乗るわけではない
- 「所得のほぼ半分が税と社会保険料」という水準をめぐっては、近年さまざまな議論が交わされている。なお2026年4月からは子ども・子育て支援金(医療保険料への上乗せ・当面は月数百円程度)の徴収も始まり、保険料側の負担項目がもう1つ増えた。集めたお金は児童手当の拡充など子育て支援に充てられる
- 「苦しい」の割合は全世帯で55.4%だが、児童のいる世帯では61.5%、母子世帯では82.1%と大きく上がる
- 相対的貧困率(手取りが全体の中央値の半分に満たない人の割合)は15.0%。ひとり親世帯では44.7%、母子世帯の21.8%は「貯蓄がない」と回答している
- 平均所得575万円という数字は、こうした世帯ごとの差を均してしまう。「平均が増えた」と「みんなが楽になった」は別の話
2025年度の税収84兆2,226億円は、前年度から12%増と、増加幅としても過去最大級だったと報じられています。基幹3税の内訳を見ると、それぞれ増えた理由がまったく違うことが分かります。
- 消費税: 26兆278億円(前年度比+4.0%・過去最高) —— 物価が上がると、同じ物を買っても税額が増える。税率を変えなくても、物価高だけで自動的に増える性質を持つ
- 所得税: 25兆2,565億円(+19.1%) —— 賃上げで名目の給与が増えると、累進課税により税額はそれ以上の割合で増えやすい。ただしこの+19.1%には注意点がある(下のコラム参照)
- 法人税: 21兆7,450億円(+21.4%) —— 値上げの浸透や円安で企業の名目利益が拡大。バブル期の1989年度を上回り、36年ぶりの過去最高となった
そして経理担当者・個人事業主にとって、この84兆円は「ニュースの向こうの話」ではありません。毎月の源泉所得税の納付書、消費税の申告書、法人税の中間納付——あなたが日々処理しているお金の集積が、この数字の正体です。
一方で、報道では「税収が過去最高でも、財政に余裕があるという意味ではない」という指摘も紹介されています。物価や金利の上昇は、社会保障費や国債の利払いといった歳出側も同時に膨らませるためです。「収入が過去最高でも、支出がそれ以上なら楽ではない」——これも会社の決算と同じ構図です。
ここで1つ、鋭い読者なら気になるはずの疑問に答えておきます。「2026年4月に始まった子ども・子育て支援金は、この過去最高の税収に含まれているのか?」
答えは「含まれていない」です。理由は2つあります。
- 期間: 今回の84兆円は2025年度(2025年4月〜2026年3月)の税収。支援金の徴収開始は2026年4月なので、そもそも期間外
- 分類: 支援金は「税金」ではなく医療保険料への上乗せ(社会保険料)。したがって来年度以降も、一般会計税収の統計には計上されない
ここに、数字を読むうえで大切な視点があります。負担が「保険料」の形をとると、税収統計にはまったく現れないのです。社会保険料を含めた負担の全体像を見たいときは、税収ではなく、POINT 02で触れた国民負担率(税+社会保険料)の側を見る必要があります。「税収が増えた・減った」だけを見ていると、負担の一部しか見えていない——これは覚えておいて損のない仕組みです。
さて、ここまで数字の中身を分解してきました。最後に、この記事は答えを出しません。代わりに、考えるための問いを置いておきます。
- 物価が上がるだけで自動的に増える税収を、何に使うのが望ましいと思いますか?
- あなたの家計では、賃上げと「物価+税・社会保険料」、どちらが勝っていますか?
- 「平均所得7.3%増」と「苦しい55.4%」、来年の同じ調査でこの2つの数字はどう動いていると思いますか?
→ 33年ぶりの賃上げ。ただしすべて「名目」の話
→ 物価・国民負担率46%・世帯ごとの偏り
→ 増えた理由は三者三様。反動増にも注意
→ 保険料の形の負担は国民負担率の側で見る
「所得は増えた」「生活は苦しい」「税収は過去最高」——どれも事実で、どれも切り取り方ひとつで印象が変わる数字です。この記事がやったのは、それぞれの数字の中身と時点をそろえて並べることだけ。そこから何を読み取るかは、あなたに委ねます。ただ、判断の前に中身を確かめる習慣だけは、経理でもニュースでも、きっとあなたの味方になってくれます。
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