所得は7.3%増、でも「生活が苦しい」55.4%。税収過去最高84兆円の中身を経理目線で分解する

所得は7.3%増、でも「生活が苦しい」55.4%。税収過去最高84兆円の中身を経理目線で分解する 税金
経理目線の経済ニュース解説

所得は7.3%増、でも「生活が苦しい」55.4%。
税収過去最高84兆円の中身を経理目線で分解する

賃上げ・物価・税金・社会保険料——2026年7月に並んだ数字をつなげると、何が見えてくるのか

所得(名目) +7.3% 33年ぶりの賃上げ 物価上昇 税・社会保険料 「苦しい」 55.4%
2026年7月、対照的な2つの数字が並びました。厚生労働省の「2025年 国民生活基礎調査」(7月15日公表)では、世帯の平均所得が575万2,000円と前年から7.3%増えた一方で、生活が「苦しい」と答えた世帯は55.4%。そしてその少し前、財務省は2025年度の国の税収が84兆2,226億円と6年連続で過去最高を更新したと発表しました。所得も税収も増えているのに、なぜ半数超が苦しいのか——。この記事では、特定の政治的立場は取らず、3つの数字の「中身」を経理目線で分解します。どう受け止めるかは、読み終えたあなた自身に委ねます。
POINT01
所得7.3%増の中身は? ——33年ぶりの賃上げ、ただしすべて「名目」
春闘・最低賃金・円安。数字の出どころを確かめる

今回の調査の「所得」は2024年1年間のものです。2024年に何があったかを思い出すと、7.3%増の出どころが見えてきます。

2024年に所得を押し上げた主な要因
  • 春闘の賃上げ率5.1%: 1991年以来33年ぶりに5%を超えた、いわゆる「賃上げ元年」だった
  • 最低賃金の大幅引き上げ: 2024年10月に全国平均1,055円へ(約5%増)。パート・アルバイトの時給にも波及した
  • 企業収益の拡大: 円安による輸出企業の収益増や値上げの浸透が、賃上げの原資になった

つまり7.3%増は実態のある数字です。ただし、ここで経理的に大事な区別があります。これらはすべて「名目」(金額の額面)の話だということです。給与が5%増えても、物価がそれ以上に上がれば、買えるものの量(実質)はむしろ減ります。実際、毎月の統計である実質賃金は、この物価高の期間中マイナス基調が長く続いてきました。

⚠ 統計を読むときの注意
この調査は「所得」が2024年1年間、「生活意識」が2025年7月時点と、数字ごとに時点が違います。ニュースの見出しだけで判断せず、「いつの・何の数字か」をセットで確認する——経理の資料チェックと同じ姿勢が、統計ニュースにも役立ちます。
POINT02
「苦しい」55.4%の正体は? ——物価・負担率・偏り
増えた給与はどこへ消えたのか。3つの側面から分解する

所得が7.3%増えたのに55.4%が「苦しい」と答える。このギャップは、主に3つの側面から説明できます。

① 物価——「実質」で見ると増えていない
  • 食料品や光熱費など、生活に欠かせない品目ほど値上がりが続いた。生活必需品の割合が高い世帯ほど、物価高の打撃は大きい
  • 名目の所得が増えても、物価上昇に追いつかなければ手元の豊かさは増えない
② 税・社会保険料——所得の半分近くが「手取りになる前」に引かれる
  • 所得に対する税金と社会保険料の負担割合を示す国民負担率は、2025年度で46.2%の見通しと財務省が公表している(2026年度の見通しは45.7%)
  • 給与が上がると、所得税(累進課税)や社会保険料もそれに応じて増える。賃上げ分がまるごと手取りに乗るわけではない
  • 「所得のほぼ半分が税と社会保険料」という水準をめぐっては、近年さまざまな議論が交わされている。なお2026年4月からは子ども・子育て支援金(医療保険料への上乗せ・当面は月数百円程度)の徴収も始まり、保険料側の負担項目がもう1つ増えた。集めたお金は児童手当の拡充など子育て支援に充てられる
③ 偏り——「平均」の裏で、苦しさは一様ではない
  • 「苦しい」の割合は全世帯で55.4%だが、児童のいる世帯では61.5%、母子世帯では82.1%と大きく上がる
  • 相対的貧困率(手取りが全体の中央値の半分に満たない人の割合)は15.0%。ひとり親世帯では44.7%、母子世帯の21.8%は「貯蓄がない」と回答している
  • 平均所得575万円という数字は、こうした世帯ごとの差を均してしまう。「平均が増えた」と「みんなが楽になった」は別の話
✓ 経理目線のポイント
会社の決算でも「売上(名目)は増えたが、原価と固定費がそれ以上に増えて利益が残らない」ことはよくあります。家計も同じで、収入(名目)−物価上昇−税・社会保険料=生活の実感。増えた側の数字だけを見ても、実態は分かりません。
POINT03
税収84兆円の中身を分解——3つの税は、なぜ増えた?
消費税・所得税・法人税。それぞれ「増え方」の性質が違う

2025年度の税収84兆2,226億円は、前年度から12%増と、増加幅としても過去最大級だったと報じられています。基幹3税の内訳を見ると、それぞれ増えた理由がまったく違うことが分かります。

基幹3税の内訳(2025年度・報道より)
  • 消費税: 26兆278億円(前年度比+4.0%・過去最高) —— 物価が上がると、同じ物を買っても税額が増える。税率を変えなくても、物価高だけで自動的に増える性質を持つ
  • 所得税: 25兆2,565億円(+19.1%) —— 賃上げで名目の給与が増えると、累進課税により税額はそれ以上の割合で増えやすい。ただしこの+19.1%には注意点がある(下のコラム参照)
  • 法人税: 21兆7,450億円(+21.4%) —— 値上げの浸透や円安で企業の名目利益が拡大。バブル期の1989年度を上回り、36年ぶりの過去最高となった
⚠ 所得税+19.1%を「賃上げの4倍取られた」と読むのは早合点
前年の2024年度は定額減税(1人あたり所得税3万円等の減税)が実施され、所得税収がその分だけ凹んでいました。2025年度の+19.1%には、減税が終わった反動増が含まれています。「賃上げ5%なのに所得税は19%増!」という比較は、数字としてフェアではありません。統計は増減の理由まで確かめてから使う——これも経理の基本です。

そして経理担当者・個人事業主にとって、この84兆円は「ニュースの向こうの話」ではありません。毎月の源泉所得税の納付書、消費税の申告書、法人税の中間納付——あなたが日々処理しているお金の集積が、この数字の正体です。

一方で、報道では「税収が過去最高でも、財政に余裕があるという意味ではない」という指摘も紹介されています。物価や金利の上昇は、社会保障費や国債の利払いといった歳出側も同時に膨らませるためです。「収入が過去最高でも、支出がそれ以上なら楽ではない」——これも会社の決算と同じ構図です。

POINT04
「税収」に映らない負担もある——数字をどう読むかはあなた次第
保険料という形の負担は、税収統計には現れない

ここで1つ、鋭い読者なら気になるはずの疑問に答えておきます。「2026年4月に始まった子ども・子育て支援金は、この過去最高の税収に含まれているのか?」

答えは「含まれていない」です。理由は2つあります。

  • 期間: 今回の84兆円は2025年度(2025年4月〜2026年3月)の税収。支援金の徴収開始は2026年4月なので、そもそも期間外
  • 分類: 支援金は「税金」ではなく医療保険料への上乗せ(社会保険料)。したがって来年度以降も、一般会計税収の統計には計上されない

ここに、数字を読むうえで大切な視点があります。負担が「保険料」の形をとると、税収統計にはまったく現れないのです。社会保険料を含めた負担の全体像を見たいときは、税収ではなく、POINT 02で触れた国民負担率(税+社会保険料)の側を見る必要があります。「税収が増えた・減った」だけを見ていると、負担の一部しか見えていない——これは覚えておいて損のない仕組みです。

さて、ここまで数字の中身を分解してきました。最後に、この記事は答えを出しません。代わりに、考えるための問いを置いておきます。

読み終えたあなたへの問い
  • 物価が上がるだけで自動的に増える税収を、何に使うのが望ましいと思いますか?
  • あなたの家計では、賃上げと「物価+税・社会保険料」、どちらが勝っていますか?
  • 「平均所得7.3%増」と「苦しい55.4%」、来年の同じ調査でこの2つの数字はどう動いていると思いますか?
✓ 数字で確かめたい方への定点観測リスト
印象ではなく数字で追いたい方は、①毎月の実質賃金(厚労省・毎月勤労統計)、②年1回の国民負担率(財務省・例年2月頃公表)、③来年の国民生活基礎調査(例年7月頃公表)の3つをチェックしてみてください。そして何より、いちばん確かな一次資料はあなた自身の給与明細と家計簿です。
まとめ: 数字は「中身」を見てから受け止める
POINT 01
所得7.3%増の出どころ
→ 33年ぶりの賃上げ。ただしすべて「名目」の話
POINT 02
苦しさの正体は3つ
→ 物価・国民負担率46%・世帯ごとの偏り
POINT 03
税収84兆円を3税に分解
→ 増えた理由は三者三様。反動増にも注意
POINT 04
税収に映らない負担
→ 保険料の形の負担は国民負担率の側で見る

「所得は増えた」「生活は苦しい」「税収は過去最高」——どれも事実で、どれも切り取り方ひとつで印象が変わる数字です。この記事がやったのは、それぞれの数字の中身と時点をそろえて並べることだけ。そこから何を読み取るかは、あなたに委ねます。ただ、判断の前に中身を確かめる習慣だけは、経理でもニュースでも、きっとあなたの味方になってくれます。

お金まわりの不安、ひとりで抱えていませんか?

「手取りが増えない理由を整理したい」「社会保険料や源泉徴収の計算が合っているか不安」「事業と家計のお金の流れを見直したい」——そんなお悩みのご相談も承っています。税理士事務所での実務経験をもとに、無理のない経理体制づくりをご提案します。

ココナラの出品サービスもありますので、そちらもご活用ください。

お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします 説得力や信頼性が高まる知識をあなたに。
この記事は、2026年7月時点で公表されている厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査」、財務省の2025年度税収発表および国民負担率の公表資料、ならびに各種報道をもとに、統計と制度の仕組みを一般向けに解説したものです。数値は公表時点の概数・見通しを含みます。本記事は数字の読み方を整理するものであり、特定の政党・政策への賛否を示すものではありません。個別の税務・社会保険の取り扱いについては、税理士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
タイトルとURLをコピーしました