残業60時間超の割増は5割|45時間との違いと給与計算の確認点

残業60時間超の割増は5割|45時間との違いと給与計算の確認点 経理の実務手順
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税理士事務所の現場から

残業が増えたとき
経理で最初に狂うのは60時間の線です

45時間の指導が外れても、割増賃金の境目は60時間のまま動いていません

2026年9月1日に、労働基準監督署による「残業は月45時間以内に」という一律の指導が取りやめになりました。適法な範囲まで抑え込まれていた枠が外れるため、残業時間が実際に増える会社が出てきます。そして10月は、指導がなくなった9月分の残業代を計算する最初の月です。

ここで経理・給与計算の担当者が押さえておくべきことは、労務の話とは別にあります。「45時間」と「60時間」は、根拠になる条文がまったく違うという点です。今回動いたのは45時間のほう(第36条の世界)で、割増賃金の率が変わる60時間の線(第37条)は、まったく動いていません。

この違いを取り違えると、「45時間を超えたから割増を上げる」あるいは逆に「指導がなくなったから割増も緩くなった」という、どちらも誤った処理につながります。

この記事では、労働基準法の条文を確認しながら、残業が増えたときに経理側の数字がどこから狂い始めるのかを、割増賃金・人件費予算・社会保険への波及の順に整理します。
✓ 先に結論
45時間と60時間は別の条文の話
45時間は36協定で定める時間の上限(第36条)、60時間は割増賃金の率が変わる境目(第37条)。今回の見直しで動いたのは前者だけです

60時間を超えた部分は5割以上。これは変わっていない
第37条第1項ただし書に定められた率です。中小企業も2023年4月から適用対象になっています

「45時間を超えたら5割」ではない
5割になるのは60時間を超えた部分からです。45時間台の残業は、原則どおり2割5分以上のままです

狂うのは単価より先に「予算の前提」
指導を受けて残業を月45時間以内に収めてきた会社では、その前提で組んだ人件費予算を見直す必要があります

給与計算の設定と36協定の記載を突き合わせる
自社の協定や就業規則に法定を上回る率を定めていれば、その率で払う必要があります
POINT01
「45時間」と「60時間」は根拠条文が違う
同じ「残業時間」でも、見ている法律の場所が別です

今回の見直しを経理の目で読むときに、最初に切り分けておきたいのがこれです。ニュースで動いた「45時間」と、給与計算で使う「60時間」は、まったく別の条文の話です。

✓ 2つの数字の住み分け
45時間 —— 労働基準法第36条
36協定で定められる残業時間の原則の上限(月45時間・年360時間)。「どれだけ働かせてよいか」という時間の枠の話です。
これを超えて働かせるには、36協定に特別条項を入れて労働基準監督署に届け出ておく必要があります。特別条項があれば、月100時間未満・年720時間以内などの範囲で45時間を超える残業も適法です。
ただ労基署はこれまで、この適法な範囲についても「45時間以内に抑えるように」と一律に指導していました。今回取りやめになったのは、この行政指導です

60時間 —— 労働基準法第37条
割増賃金の率が変わる境目。「いくら払うか」というお金の話です。今回の見直しとは無関係で、何も変わっていません

つまり45時間は労務の枠、60時間は経理の単価と考えると整理しやすくなります。指導の運用が変わったのは前者だけで、後者の条文には手が入っていません。

ここを混同すると、次のような誤りが起きます。

✕ よくある取り違え
  • 誤り「45時間を超えたら割増は5割になる」
    → なりません。5割になるのは60時間を超えた部分からです
  • 誤り「45時間を超えた分は、残業代を払わなくてよい」
    → 払います。何時間であっても、働いた時間の残業代は全額支払う必要があります。上限を超えた違法な残業であっても、割増賃金の支払い義務はなくなりません(最高裁昭和35年7月14日判決)
  • 誤り「一律指導がなくなったから、割増賃金の扱いも緩くなった」
    → 緩んでいません。第37条は改正されていません
  • 誤り「60時間の5割は大企業だけの話」
    → 中小企業も2023年4月から適用対象です。猶予はすでに終わっています

3つ目は特に注意が必要です。中小企業への適用猶予があった時期の情報が、いまだに検索で出てくることがあります。猶予は2023年3月末で終了しており、現在は企業規模を問わず適用されます。

POINT02
60時間超の5割は条文でどう書かれているか
原文を確認しておくと、社内で説明するときに強い根拠になります

割増賃金の率は、労働基準法第37条第1項に定められています。原文を引用します。

⚠ 労働基準法 第37条第1項(抜粋)
「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」

読み取れることは2つです。

  • 原則は2割5分以上/本文の部分です。時間外労働の割増率の基本になります
  • 月60時間を超えた部分は5割以上/ただし書の部分です。「超えた時間の労働について」と書かれており、60時間までの分まで遡って5割になるわけではありません

この「超えた部分だけ」という書き方が実務では重要です。月70時間の残業なら、60時間までが2割5分以上、超えた10時間分が5割以上という計算になります。全体が5割になるのではありません。

⚠ 深夜・休日との重なりは別の計算になる
第37条には深夜労働(午後10時〜午前5時)の割増も定められており、時間外労働と深夜労働が重なればそれぞれの率が加算されます。60時間を超えた時間帯が深夜にかかった場合、深夜25% + 時間外50% = 75%という計算になります。

また60時間のカウントに何を含めるかにも決まりがあります。法定休日(週1日の休日)の労働は含めません。一方でそれ以外の休日(法定外休日。多くの会社では土曜日)の時間外労働は含めます。「休日出勤はすべて対象外」と誤解すると、60時間の判定そのものがずれます。

どの曜日が法定休日にあたるかは会社の就業規則の定め方によって変わります。実際の計算にあたっては、自社の就業規則と給与計算の設定を確認してください。
POINT03
残業が増えたとき、数字はこの順で狂う
単価・保険料・予算の順で影響が出ます

指導の枠が外れて残業が実際に増えた場合、経理側の数字はひとつずつ順番に影響を受けます。どこから見ればよいかを整理します。

✓ 影響が出る順番
1番目 —— 割増賃金の単価
45時間台で収まっていた人が60時間を超えると、超えた部分の単価が2割5分から5割に上がります。時間の増え方以上に金額が伸びる区間です

2番目 —— 社会保険料への波及
残業代は標準報酬月額の計算に含まれます。4〜6月の残業が増えると、その平均で決まる9月からの標準報酬月額(定時決定)が上がる場合があり、そうなれば保険料も増えます

3番目 —— 人件費予算のずれ
月次では小さく見えても、年度で積み上がると予算との差が大きくなります

1番目が最も見落とされます。残業時間が2割増えたら人件費も2割増える、という感覚で予測すると足りなくなるからです。60時間を超えた部分は時間あたりの支払額そのものが変わるため、時間の伸びと金額の伸びが一致しません。

✓ 単価がどう変わるかを数字で見る
時給1,200円の人を例にすると、割増を含めて実際に支払う1時間あたりの金額は次のようになります。

60時間まで/1,200円 × 1.25 = 1,500円(2割5分以上の場合)
60時間を超えた部分/1,200円 × 1.50 = 1,800円(5割以上の場合)

支払額としては1.2倍です。「割増部分」だけを見れば0.25から0.50で2倍になりますが、実際に出ていくお金は1,500円から1,800円への増加になります。この2つを混同すると人件費の見積もりが合わなくなります。

2番目の社会保険への波及については、手続きそのものは社会保険労務士の領域です。ただし経理としては、保険料の会社負担分が増えれば法定福利費も増えるという形で数字に返ってくるため、影響を見込んでおく必要があります。

⚠ 残業代が増えただけでは、随時改定にはなりません
年の途中で標準報酬月額を見直す随時改定は、基本給や手当など固定的賃金に変動があったことが前提です(日本年金機構)。残業代が増えたというだけでは、随時改定の対象になりません。残業代の増加が保険料に効いてくるのは、主に4〜6月の報酬で決まる定時決定のほうです。

該当するかどうかの判断や届出の手続きについては、社会保険労務士または年金事務所にご確認ください。この記事では、経理として「法定福利費が動く可能性がある」と見込んでおく、という範囲にとどめます。
POINT04
人件費予算の前提が崩れる
「残業は45時間以内」を前提にした予算は、置き直しが必要です

ここが今回の見直しで、経理として最も実務的に効いてくる部分です。

労基署の指導を受けて、残業を月45時間以内に収めるよう管理してきた会社では、人件費の見積もりもその前提で組まれていることがあります。法律上は特別条項で45時間を超えられても、指導があるため実際には超えにくかったからです。

その指導がなくなりました。法律上の上限(月100時間未満など)は残りますが、45時間から法律上の上限までの間は、これまでより残業が伸びやすくなります。60時間を超える人が出れば、その部分は5割以上の割増になります。

✓ 予算の置き直しで見るところ
実績の分布を見る
直近の月別残業時間を、45時間以下・45〜60時間・60時間超の3つに分けて人数を数えます。60時間超の区間に何人いるかが単価上昇の見込みに直結します

60時間を超えやすい部署を特定する
全社平均ではなく部署別・個人別で見ます。平均では埋もれます

法定福利費もあわせて見込む
残業代だけでなく、会社負担の社会保険料も連動して増える可能性があります

なお、残業代そのものの勘定科目は、多くの場合給料手当などの人件費科目に含めて処理します。ただし科目の立て方や、どこまでを1つの科目にまとめるかは会社ごとに異なります。自社の勘定科目の設定に合わせて処理してください。

⚠ 「増える前提」で組むという話ではない
指導が外れたからといって、残業が増えることが決まったわけではありません。36協定の上限も、労働基準法の上限も残っています。

ここで言っているのは、「残業は月45時間以内に収まる」という前提を無条件に置けなくなったということです。実績を見たうえで、自社にとって現実的な見込みを置き直してください。
POINT05
給与計算の設定を協定と突き合わせる
協定に書いた率と、実際に計算している率が合っているかを見ます

36協定を見直す会社が出てくるタイミングなので、給与計算の設定と協定の記載が合っているかを確認しておくと安全です。

特別条項付きの36協定には、限度時間を超えて働かせる場合の割増賃金率を定める欄があります。厚生労働省の記載例では35%という数字が使われていますが、これはあくまで記入例の数字です。35%が義務づけられているわけではありません。

様式の注意書きでは、この欄について法定の割増率(25%)を超える率となるよう努めることとされています。努力義務であり、25%のままでも直ちに違法にはなりません。

⚠ 協定・就業規則・給与計算の率をそろえる
努力義務なので率の設定自体は自由度があります。ただし、就業規則がある会社では、割増賃金の率は賃金の計算方法として就業規則にも記載する事項です(労働基準法第89条第2号)。協定や就業規則に法定を上回る率を定めていれば、その率で計算して支払うことになります。

「協定には35%と書いてあるのに、給与計算は25%で設定されている」という食い違いは実際に起こります。協定を見直すこの機会に、就業規則(賃金規程)と給与計算ソフトの設定をあわせて突き合わせておいてください。

確認する順番は次のとおりです。

  • 1/自社の36協定の控えを出し、割増賃金率の欄に何%と書いてあるかを見る
  • 2/給与計算ソフトの時間外手当の設定率を確認する
  • 3/60時間超の区分が設定されているかを確認する。区分がなければ超過分が2割5分のまま計算されている可能性があります
  • 4/深夜・休日の割増が別枠で設定されているかを見る

3番目は、中小企業への猶予があった時代の設定がそのまま残っている場合に起こりやすいところです。猶予は2023年3月末で終わっています。

POINT06
代替休暇という選択肢もある
条文に定めがありますが、導入には労使協定が必要です

第37条には、60時間を超える部分について、割増賃金の引き上げ分の代わりに、有給の休暇を与えることができるという定めもあります。代替休暇と呼ばれるものです。

条文では、労使協定によって定めた場合に、第37条第1項ただし書の割増賃金(5割以上)の支払いに代えて有給の休暇を与えることができ、労働者が実際にその休暇を取得したときは、その分についてただし書の割増賃金を支払うことを要しないとされています。

ここで誤解しやすいのが、割増賃金がまったく不要になるわけではないという点です。休暇を取った場合でも、通常の2割5分以上の割増賃金は支払う必要があります。代わりになるのは、60時間を超えたことで上乗せされる部分(引き上げ分)だけです(厚生労働省の通達・リーフレット)。

⚠ 導入には条件がある
代替休暇を使うには労使協定の締結が必要です。協定なしに「休みを与えたから割増は払わない」とすることはできません。

また、代替休暇を取るかどうかは労働者本人の意思によります。会社が一方的に割増賃金の支払いを免れられる仕組みではありません。

導入を検討する場合は、労使協定の内容も含めて社会保険労務士にご相談ください。この記事では、そうした選択肢が条文上あるという事実の紹介にとどめます。

経理の立場としては、代替休暇を導入している会社では、割増賃金の計上額と実際の休暇取得の状況が連動するという点を押さえておけば十分です。導入していない会社では、通常どおり5割以上の割増賃金を計上することになります。

まとめ
POINT 01
45時間と60時間は別物
→ 第36条と第37条
POINT 02
5割は超えた部分だけ
→ 全体が5割ではない
POINT 03
中小企業も適用済み
→ 猶予は2023年3月末で終了
POINT 04
時間の伸び以上に金額が伸びる
→ 60時間超は単価が変わる
POINT 05
予算の前提を置き直す
→ 45時間以内とは限らない
POINT 06
協定と給与設定を突き合わせる
→ 協定・就業規則の率で払う
残業代の計算や人件費の処理で、判断に迷ったら

割増賃金の率、月60時間超の扱い、法定福利費への波及など、残業が動くと給与計算と経理の両方に影響が出ます。自社の処理が合っているか不安なとき、第三者に一度見てもらうと整理がつくことがあります。

お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします

税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。※具体的な税額の計算・申告書の作成・個別の税務判断は税理士業務のため承っておりません。

本記事は2026年10月1日時点の労働基準法(e-Govで第37条の条文を確認)および厚生労働省・日本年金機構の公表資料をもとに作成しています。制度は改正される場合があるため、実際の判断にあたっては最新の情報をご確認ください。個別の労務判断・社会保険の手続きについては社会保険労務士に、税務の判断については税理士にご相談ください。本記事にはアフィリエイト広告および筆者自身の出品サービスの紹介が含まれています。
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