プルデンシャル生命「39億円金銭詐取」問題
法人保険の契約者が確認すべきことと「節税では入れない」今の常識
お金は必ず保険会社へ直接——そして法人保険は2019年から「節税商品」ではなくなっています
報道と同社グループの公表内容を時系列で整理すると、次のようになります。
- 2026年1月: 社内調査の結果を公表。107人の社員・元社員が、1991〜2025年の長期間にわたり、503人の顧客から架空の投資話でお金を集める・借りたお金を返さないなどの手口で金銭を受け取っていたと報じられました
- 2026年2月: 第三者委員会を設置し、金銭不祥事に関する調査を開始
- 2026年春以降: 金融庁が保険業法(保険会社を監督する法律)にもとづく立入検査に着手したと報じられています
- 2026年7月1日: 企業倫理・ガバナンス強化のための組織改革を実施
- 2026年7月24日: 補償の進捗を公表。新たに125人・約7億9千万円の被害が判明し、判明分の総額は約39億円に。285人に計約14億6千万円の補償を決定済みと報じられています
今回報じられている手口の多くは、ランサムウェアのような高度なものではなく、「営業担当者が個人的にお金を預かる・借りる」という昔ながらのものです。だからこそ、経理の帳簿と通帳を見れば自社でチェックできます。
- ① 保険料の支払先を元帳で確認する: 「支払保険料」「保険積立金」の相手先が保険会社名義の口座振替・クレジット払いになっているか。個人名義の口座への振込が1件でもあれば要確認です
- ② 保険料以外にお金を渡していないか思い出す: 「特別な運用に回す」「一時的に立て替えてほしい」などの名目で、担当者に現金や振込でお金を渡したことがないか。手書きの領収書や個人名義の借用書しかないものは特に危険です
- ③ 不安があれば会社の公式窓口に直接確認する: 担当者本人ではなく、保険会社のカスタマーサービスに契約内容と入金記録を照会します。各社が相談窓口を設けています
- 営業担当者の個人口座に振り込む・現金を手渡しする(保険料の払込方法として、担当者個人がお金を預かることはありません)
- 「保険会社の特別な運用」「未公開の社内商品」「利回り保証」といった担当者個人からの投資の誘いに乗る(正規の保険商品にこのような案内はありません)
- 証拠が手書きの領収書・個人名義の借用書しかない取引を放置する(正規の取引なら保険会社発行の書類が必ずあります)
プルデンシャル生命をはじめ、生命保険各社の経営者向け保険はかつて「保険料が全額損金(経費)になり、解約すれば大半が戻ってくる」という実質的な節税商品として盛んに販売されていました。しかしこの使い方は、2019年に国税庁がルールを変えて事実上終わっています。
- 2019年2月(通称「バレンタインショック」): 国税庁が法人向け保険の税務取扱いの見直しを表明。各社は「全額損金」タイプの保険の販売を一斉に停止しました
- 2019年6月に通達を改正、7月8日以後の新契約から新ルールを適用: 損金にできる割合が「最高解約返戻率」(保険期間中いちばん高い解約返戻率)で決まる仕組みに変わりました
- 2021年6月: 残っていた抜け道の「名義変更プラン」(解約返戻金が低い時期に契約を法人から経営者個人へ移し、低い評価額で買い取る手法)も、所得税のルール改正で封じられました
- 最高解約返戻率50%以下 → 保険料は全額損金にできます(掛け捨てに近いもの)
- 50%超〜70%以下 → 保険期間の当初4割の期間は、保険料の40%を資産計上(損金は60%)。ただし被保険者1人あたり年換算保険料30万円以下なら全額損金にできる特例があります
- 70%超〜85%以下 → 当初4割の期間は、保険料の60%を資産計上(損金は40%)
- 85%超 → 当初10年間は「保険料 × 最高解約返戻率 × 90%」を資産計上。返戻率90%の保険なら損金にできるのは2割弱だけです
細かい条件は国税庁タックスアンサーNo.5364-2(前払部分の保険料が多い定期保険等)とNo.5364にまとまっています。要するに、「戻ってくるお金が多い保険ほど、損金にできない」——節税目的の設計が成り立たないように作られたルールです。
「節税にならないなら法人保険は不要か」というと、そうではありません。目的を正しく持てば、法人保険はいまでも有効な道具です。
- 事業保障: 経営者に万一のことがあった時、借入金の返済・当面の運転資金・従業員の給与を保険金でまかなう(中小企業では経営者の信用=会社の信用です)
- 連帯保証対策: 経営者個人が会社の借入の連帯保証人になっている場合、遺された家族を保証債務から守る資金になります
- 役員退職金の準備: 解約返戻金を退職金の原資に充てる設計。「損金の繰り延べ」と「退職金という出口」をセットにする、現在も成り立つ王道の使い方です
- 資産計上額 = 100万円 × 90% × 90% = 81万円、損金は残りの19万円
- 支払時: (借方)保険積立金 810,000 / 支払保険料 190,000 (貸方)普通預金 1,000,000
- 解約時: (借方)普通預金(受け取った返戻金) / (貸方)保険積立金(それまでの資産計上累計)、差額はプラスなら雑収入(益金)、マイナスなら雑損失として処理します
- 掛け捨て(最高解約返戻率50%以下)なら、(借方)支払保険料 / (貸方)普通預金 だけのシンプルな処理です
→ 調査継続中。「終わった話」ではない
→ 担当者個人へのお金はどんな名目でもNG
→ 損金割合は最高解約返戻率で決まる
→ 資産計上と損金の区分を仕訳で押さえる
今回の事件から経理が学ぶべき教訓はシンプルです。「会社のお金は、必ず会社(保険会社)名義の口座にしか払わない」——このルールを守っているだけで、今回のような被害のほとんどは防げます。そして保険の提案を受けたら、「節税になるか」ではなく「万一のとき、いくら必要か」で判断してください。
振込先のすり替えを狙う「ビジネスメール詐欺」への備えも、あわせて確認しておくと安心です。
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