マイクロ法人を検討する前に
計算しておくこと
社会保険料は下がります。ただ、下がった分がそのまま残るわけではありません
社会保険料が下がるのは事実です。条件によっては年間で20万円以上変わります。ただ、相談を受けて数字を並べてみると、思っていたほど手元に残らないケースが少なくありません。
さらに2026年3月に厚生労働省から通知が出され、9月14日にはそれが強化されました。同じ日に公表された調査結果では、38事業所・1万1610人が社会保険の資格を失っています。判断の前提が変わっています。
この記事では、検討に入る前に確認しておきたいことを整理します。具体的な金額の計算と、通知が示した基準の中身は、noteの記事にまとめました。
個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入します。このうち国民健康保険は、所得が増えるほど保険料も上がる仕組みです。
一方、法人から給料を受け取る人は健康保険と厚生年金に加入します。こちらは所得ではなく、受け取る給料の額で保険料が決まります。
- 個人事業はそのまま続ける: メインの収入源は変えません
- 別に法人をひとつ作る: 自分が代表になります
- 法人から少額の給料を受け取る: この給料の額で社会保険料が決まります
- 国民健康保険と国民年金の支払いがなくなる: 社会保険に切り替わるためです
個人事業の所得は、社会保険料の計算に入りません。ここが「保険料が下がる」と言われている理由です。理屈としては、そのとおりです。
社会保険料は、標準報酬月額という区分で決まります。給料をいくらにするかで、この区分が変わります。
ここで見落とされやすいのが、健康保険と厚生年金では等級表が別ものだという点です。下限が違います。
- 健康保険: 50等級あり、下限は標準報酬月額58,000円です
- 厚生年金: 32等級で、下限は標準報酬月額88,000円です
厚生年金保険料率は18.3%で固定されています(平成29年9月から変わっていません)。88,000円に対する保険料は月16,104円で、社長ひとりの会社では会社負担分も自分で払うことになります。さらに子ども・子育て拠出金(厚生年金の標準報酬月額×0.36%)が事業主負担として加わります。
「給料を限界まで下げれば保険料も限界まで下がる」と考えていると、ここで計算が合わなくなります。
健康保険のほうは、報酬月額が63,000円未満であれば下限の等級にとどまります。どこまで給料を取れて、どこから保険料が上がるのか——この境目を知っているかどうかで、設定する金額が変わります。
マイクロ法人は、計算すると思ったほど残らない(note)
法人を作ると、社会保険料とは別に発生するものがあります。検討の段階で見落とされやすいのは、次の3つです。
- 法人住民税の均等割: 赤字でも、売上がゼロでもかかります。金額は自治体によって異なりますが、資本金が小さい会社なら都道府県で2万円前後、市区町村で5万円前後、合計7万円程度になることが多いです
- 申告のコスト: 法人税の申告書は、確定申告とは別ものです。所得が0円でも申告しなければ青色申告が取り消されます。会計ソフトを入れるか、税理士に依頼するかを決める必要があります。なお顧問契約ではなく決算と申告書の作成だけを請け負っている税理士もあり、取引の少ない会社ならそちらのほうが安く収まることがあります
- 設立の費用: 登録免許税をはじめ、最初にまとまった支出があります
取引の少ない会社ほど登記を忘れやすく、放置したときの影響も株式会社のほうが大きくなります。社会保険のために作る法人であれば、維持の手間は合同会社のほうが少なく済みます。
法人の申告をご自身でされているケースを、私は実務で聞いたことがありません。どの方法を選んでも費用がかかるという前提で計算してください。
さらに、個人と法人を合わせた売上が1,000万円を超えると消費税の話が出てきます。仕入れを伴う事業の場合は、利益が薄くても売上の金額だけが大きくなりやすいため、注意が必要です。
マイクロ法人は、個人事業を残したまま別に法人を作ります。ということは、売上も経費もどちらに属するのかを分ける必要があります。
ここで問題になるのが、その所得が法人と個人のどちらに帰属するのかという判断です。税法には実質所得者課税の原則という考え方があり、所得税法第12条に定められています。
名義を分けた事業について所得が誰に帰属するかは、過去に何度も争われています。どういう事実が判断に使われたのかは、公表されている裁決から読み取れます。
帳簿も2つになります。毎月の記帳の手間が単純に増えるという点は、検討のときに数えておいてください。下がった保険料を、増えた手間で割ってみると、判断が変わることがあります。
2026年3月、厚生労働省から「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という通知が出されました。宛先は全国健康保険協会・健康保険組合・日本年金機構です。
通知が問題として挙げているのは、個人事業主やフリーランスを法人の役員として届け出る一方で、その人から会費等と称して役員報酬を上回る額を支払わせている事業所です。他人が用意した法人に名前だけ入る形態が名指しされました。
会費を払う形態だけを対象にした通知ではありません。自分で法人を作って自分が代表になる場合も、同じ基準で判断されると読むのが自然です。
通知には、役員が被保険者資格を持つための2つの基準と、実態がなかった場合にどう取り扱うかが具体的に書かれています。売上がほとんどない法人にとっては、無視できない内容です。
そして2026年9月14日、厚生労働省はこの3月通知を一部改正し、あわせて新しい通知を出しました(保保発0914第1号・第2号/年管管発0914第1号・第2号)。同じ日に、調査結果も公表されています。
報道によれば、厚生労働省は該当者に対し国民健康保険と国民年金の保険料を遡って請求する方針とされています。「気づかれない」前提で成り立つ話ではなくなったということです。
9月の通知で変わった点は、大きく2つあります。
- 対象が「役員」以外にも広がった/新しい通知は「勤務時間が短い正規型の労働者」として雇われている個人事業主等を対象にしています。役員ではなく従業員という形をとっていても、同じように判断されます
- 会費が報酬以下でも対象になりうると明記された/3月通知の改正で、会費等が報酬と同額または下回っている場合でも、会費が報酬の多くを占める状態が常態化しているようなときは、常用的使用関係が認められない可能性があると書き加えられました
また、判断の材料として指揮命令権を持つ職員がいるか・決裁権のある所管業務があるか・役員会等での取りまとめや代表者への報告をしているか・会議以外の業務があり、どのくらい出勤しているかといった具体的な着眼点が、改正で追加されています。
名目を変えれば避けられる、という作りにはなっていません。関連法人に支払わせている場合についても、実質的に同一の法人として扱うべきと認められるときは同様に扱う、とされています。
なお、会費を徴収して社会保険に加入させる形のサービスは、3月の通知が出たあと、2026年3月から4月にかけて相次いで新規受付の停止・サービス終了・法人の解散に至っています。終了の理由を「法令遵守の観点から」と告知したサービスもあります。こうしたサービスを利用していた場合、自分の資格がどう扱われるかは自分で確認しておく必要があります。
ただし3月通知が「代表者を含む」と書いている点は変わっていません。自分で法人を作った場合でも、経営に参画する実態があるか・報酬が業務の対価として経常的に支払われているかという2つの基準で見られることに変わりはありません。
通知が示した2つの基準、実態がなかった場合にどう取り扱われるのか、そして国民健康保険と社会保険で年間いくら違うのか——このあたりは、条文と公表資料にあたって具体的に書いています。
役員報酬をいくらに設定するのが効率的かという計算も、3つのパターンで比べました。
有料記事(500円)です。前半は無料でお読みいただけます。
→ 社会保険の入口だけ変える
→ 給料を下げても変わらない
→ 年7万円程度が目安
→ ソフト代か税理士報酬
→ 判断は形式でなく実態
→ 1万1610人が資格を喪失
この記事では、検討に入る前に押さえておきたい考え方を整理しました。
実際にいくら違うのかという金額の計算。役員報酬をいくらに設定するのが効率的か。通知が示した2つの基準と、実態がなかった場合の取扱い。そして所得の帰属について公表されている裁決が、どういう事実を見て判断したのか。
このあたりを踏み込んでまとめた記事を、noteで公開しています。
前半は無料でお読みいただけます。図解7点つき。
帳簿を2つに分けたあとで残高が合わなくなる、どちらの経費か判断がつかない——このあたりは、相談として実際によくいただく内容です。自分で追いきれないときは、第三者に一度見てもらうと整理がつくことがあります。
お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。※具体的な税額の計算・申告書の作成・個別の税務判断は税理士業務のため承っておりません。

