消費税1%の大綱が閣議決定
2年縛りの不適用まで書かれました
8月の基本方針では空欄だった事業者向けの手当てが、ようやく具体的に埋まりました
まず文書の名前を正確に押さえます。9月15日に閣議決定されたのは、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」です。毎年12月に決まる「令和○年度税制改正の大綱」とは別の、この件だけを扱う単独の大綱になっています。
原文は内閣官房 社会保障国民会議のページで公表されています(全16ページ)。本記事の引用はすべてこの原文にもとづいています。
次に税率です。報道では「1%」と書かれますが、大綱の原文はこう書いています。
国の消費税が0.78%、地方消費税と合わせて1%という書き方です(逆算すると地方消費税分は0.22%になります)。いまの軽減税率8%が「国6.24%+地方1.76%」と表記されるのと同じ構造で、申告書や税額計算はこの内訳で動きます。実務でシステム設定や税区分の話をするときは、この0.78%という数字が出てくる場面があります。
対象はいまの軽減税率8%が適用されている飲食料品です。対象範囲そのものは変わりません。そして注意したいのが新聞です。
インボイス(適格請求書)の記載についても書かれています。特例対象の譲渡を行った場合、適格請求書や仕入明細書の「適用税率」欄には特例税率を、「消費税額等」欄には特例税率に基づく金額を記載するとされています。請求書の様式そのものが変わるわけではなく、記載する税率の値が増えるという整理です。
ここが今回の大綱で最も実務に効く部分です。
前提を説明します。簡易課税制度は、いったん選択すると原則2年間はやめられません(消費税法37条。いわゆる「2年縛り」)。また課税事業者を選択した場合も同様の縛りがあります。
ここで問題が起きます。飲食料品を扱う事業者は、売上の税率が1%に下がる一方、仕入や経費にかかる消費税(10%のものが多い)は変わりません。すると本則課税なら還付になるケースが出てきます。ところが2年縛りがあると、還付を受けたくても本則課税に移れない。大綱はこの問題をそのまま指摘しています。
これを踏まえて講じられるのが、次の2つの措置です。
- 課税事業者選択届出書/令和9年4月1日の属する課税期間から課税事業者になることを選択する場合、その課税期間の末日までに提出すれば、期首の前日に出したものとみなす
- 簡易課税制度選択不適用届出書/同じ課税期間について簡易課税をやめる場合、その課税期間の末日までに提出すれば期首の前日に出したものとみなし、さらに2年縛りは適用しない
消費税の届出は「適用を受けたい課税期間が始まる前の日まで」に出すのが原則です。それがその課税期間が終わるまで待てるようになる。つまり1年間の実績を見てから、本則課税か簡易課税かを選べるということです。これは実務上かなり大きい緩和です。
簡易課税は、売上にかかる消費税に業種ごとのみなし仕入率(卸売90%・小売80%など)を掛けて仕入控除税額を計算する制度です。実際の仕入がいくらかは関係ありません。
すると税率が1%に下がったとき、簡易課税の事業者には不利が生じます。売上税額が小さくなっても、その一定割合しか控除できないため、わずかながら納税額が残る。一方で本則課税なら還付になる。大綱はこの差を問題として挙げ、次の特例を設けるとしています。
売上税額と同額を控除できる、という書き方です。売上税額から同額を引けば残りはゼロですから、飲食料品の譲渡に対応する部分については、簡易課税でも納税額が出ないことになります。業種区分(第1種〜第6種)にかかわらず、という点も明記されています。
さらに、いわゆる2割特例・3割特例の適用を受ける場合も同様とされています。インボイス登録にともなう小規模事業者向けの経過措置を使っている事業者も、同じ扱いになります。
中間申告は、原則として前年に納めた消費税額をもとに計算します。ところが税率が8%から1%に下がると、前年実績で計算した中間申告税額は実態より大きくなりすぎます。資金繰りの面では、払わなくてよいお金を先に払うことになります。
大綱は、これに対して次の措置を講ずるとしています。
- 令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間/前の課税期間の取引に特例税率(1%)が適用されていたものとして計算した中間申告税額を記載できる(その額がない場合はゼロ)
- 令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間/こんどは逆に、前の課税期間の取引に特例税率が適用されなかったものとして計算した額を記載できる
2つ目は、税率が1%から8%に戻ったあとの話です。戻った年は、前年実績(1%の期間)で計算すると中間申告税額が小さくなりすぎ、期末にまとめて負担が来ます。それを避けるための調整です。下がるときと戻るときの両方に手当てがあると読めます。
店頭価格は、消費税込みの総額で表示することが義務づけられています(総額表示義務)。税率が変わる日をまたいで値札を貼り替えるのは、店舗にとって大きな負担です。
まず認められないことから押さえます。大綱は、税抜価格(本体価格)のみを表示する方法や、税抜価格に続けて「+税」とだけ表示する方法など、税込価格を表示しない方法は引き続き認められないと明記しています。総額表示義務そのものが外れるわけではありません。
そのうえで、直ちに対応することが困難な事情がある場合に限り、次の期間について、その期間に対応する税率で計算した税込価格を表示してよいとされています。誤認されないための措置を講じている場合という条件つきです。
- 令和9年2月1日〜3月31日/まだ8%の期間だが、1%に基づく税込価格を表示してよい(引下げ前の先回り)
- 令和9年4月1日〜5月31日/もう1%の期間だが、8%に基づく税込価格を表示してよい(引下げ後の貼替え猶予)
- 令和11年2月1日〜3月31日/まだ1%の期間だが、8%に基づく税込価格を表示してよい(引上げ前の先回り)
- 令和11年4月1日〜5月31日/もう8%の期間だが、1%に基づく税込価格を表示してよい(引上げ後の貼替え猶予)
切替日の前後2か月ずつ、古い税率と新しい税率のどちらの税込価格でも表示できる、という設計です。夜間に一斉に値札を貼り替えられない店舗や、カタログ・商品パッケージに価格が印字されている場合が理由として挙げられています。
なお大綱の注では、スマートレジシステムへの移行やレジシステムの改修を行う中小企業等に対する支援を行うとも書かれています。ただし支援の内容・金額・申請方法は大綱には書かれておらず、今後の予算編成の過程で具体化されます。
報道ではほとんど触れられていませんが、大綱には特例税率を適用しない取引が書かれています。定期供給契約と通信販売の一部です。
理由は、特例税率を前提とした契約変更等が困難な事例が生じることが想定されるためとされています。具体的には次の2つです。
- 定期供給契約/令和9年1月1日より前に締結した定期供給契約に基づき、令和9年4月1日より前に対価を受け取っている、同日以後の飲食料品の譲渡(その受け取っている部分に限る)
- 通信販売/令和9年1月1日より前に販売条件の提示が行われ、令和9年4月1日より前に申込みを受けた、同日以後の飲食料品の譲渡
いずれも「特例税率を前提とするものを除く」という括弧書きがついています。つまりあらかじめ1%を織り込んだ契約なら、この除外には当たらないという整理です。
あわせて、農林漁業者・食品事業者・外食事業者への対応も大綱に書かれています。とくに本則課税に移行することが困難な簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者については、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組みを導入するとされました。8月の基本方針では「検討する」だけだった部分が、給付という形で一歩進んでいます。また本則課税事業者に移行する際の相談対応や、税理士費用等の経費に対する支援を行うという記述もあります。
ただし、これらの支援はいずれも金額・要件・申請方法が大綱に書かれていません。「予算編成過程において支援内容を具体化する」とされている段階です。支援があることを前提に設備投資の判断をするのは、まだ早いと考えています。
- 税区分が3本立てになる前提でシステムを確認する/1%・8%(新聞)・10%が並びます。販売管理システムの提供元に、対応予定と時期を聞いておく
- 自社が簡易課税か本則課税かを確認する/簡易課税なら、今回の特例で判断を先送りできます。ただし届出は必要です
- 令和9年1月1日前の定期契約を洗い出す/定期購入・頒布会・カタログ通販がある事業者は、除外に当たる契約があるかを先に把握する
- 1%から8%に戻る時期の資金計画も立てる/令和11年4月に戻ります。戻ったあとの納税を見込んでおく
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