災害で会社の資産が壊れたときの経理・税務処理を、順番に解説
やっかいなのは、災害時には平時とは違うルールが用意されていることです。普段どおりに処理してしまうと、本来使えるはずの特例を取りこぼすことがあります。
この記事では、法人が災害で被害を受けたときの経理・税務処理を、実際に手を動かす順番に沿って整理します。個人事業主の方は制度が別体系になるため、記事末尾の関連記事もあわせてご覧ください。
災害で被害を受けたとき、法人税の計算上まっさきに損金として扱えるものが3つあります。国税庁のタックスアンサーで明示されている類型です。
- 資産が滅失・損壊した場合の損失
商品や原材料などの棚卸資産、店舗や事務所などの固定資産が対象になります - 損壊した資産の取壊し・除去のための費用
壊れた建物や設備を解体・撤去するのにかかった費用です - 土砂その他の障害物の除去のための費用
流れ込んだ土砂やがれきの撤去費用が該当します
ポイントは、「壊れた資産そのものの損失」だけでなく、「片づけにかかった費用」も損金になるという点です。撤去費用は金額が大きくなりがちなので、請求書を確実に保管しておいてください。
滅失・損壊による損失とは別に、資産の評価損という選択肢もあります。棚卸資産、固定資産または一定の繰延資産について災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合、帳簿価額と時価との差額について損金経理をすることにより評価損を計上し、損金の額に算入できます。
修理にお金をかけたとき、経理担当者が毎回悩むのが「一括で経費(修繕費)にできるのか、資産計上(資本的支出)して減価償却するのか」という判定です。
ここで重要なのが、災害で被害を受けた資産には、平時とは別の判定ルールが用意されていることです。法人税基本通達7-8-6「災害の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例」がそれにあたります。
対象は、災害により被害を受けた固定資産(その被害に基づき評価損を計上したものを除きます)で、これを「被災資産」と呼びます。前のセクションで触れたとおり、評価損を計上した資産はこの特例の対象外になる点に注意してください。
- 原状回復のための支出は修繕費
被災した資産を元の状態に戻すための費用は、修繕費になります - 被災前の効用を維持するための補強工事なども修繕費でOK
補強工事・排水・土砂崩れの防止などのための支出について、修繕費とする経理をしているときは、その処理が認められます - 判断がつかないものは30%を修繕費にできる
資本的支出か修繕費か明らかでないものは、その金額の30%相当額を修繕費、残額を資本的支出とする経理が認められます
なお、災害の特例に「30万円」という金額基準はありません。3つ目の30%は「金額のライン」ではなく「支出額の割合」の話です。ここは取り違えやすいので注意してください。
実務では、3つ目の30%基準が効いてきます。復旧工事は「元に戻す部分」と「ついでに良くする部分」が入り混じって、きれいに区分できないことが多いためです。区分が明らかでないときは、この特例を検討してください。
災害の被害が大きいと、決算日までに復旧工事が終わらないことがあります。このとき「まだ払っていないから今期の損金にできない」となると、被害を受けた事業年度の業績と実態が合わなくなってしまいます。
そこで用意されているのが災害損失特別勘定です。
- 対象:災害のあった日から1年以内に支出する費用
- 金額:その適正な見積額として、繰入限度額以下の金額
- 要件:損金経理により繰り入れること
つまり、まだ実際には支出していない復旧費用でも、合理的に見積もった金額を当期の損金に算入できます。「1年以内に支出する分」という区切りと、帳簿上で費用として処理する(損金経理)ことが条件です。
もう一つ、忘れてはいけないのがその後の取崩しです。災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において災害損失特別勘定の残額がある場合、その残額を取り崩して益金の額に算入することになります。使い切れなかった分は戻す、ということです。
ただしこれは税務署長の確認を前提とする手続です。「やむを得ない事情」に当たるかどうかは個別に判断されるため、自動的に延長されるものではありません。工期が延びそうな場合は、早めに税理士・所轄税務署にご相談ください。
災害による損失が大きく、その事業年度が赤字になった場合の取扱いです。ここは「何が平時と同じで、何が災害の特例なのか」を区別しないと意味を取り違えます。
まず前提として、欠損金を10年間繰り越せること自体は、災害に限った話ではありません。青色申告をしている法人であれば、平時の赤字でも10年繰り越せます。ここだけを見て「災害だから10年」と理解すると、特例の中身を取りこぼします。
災害の特例はここです。棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係る欠損金額(災害損失欠損金額)がある場合には、その損失の発生した事業年度が青色申告書を提出できない事業年度であっても、その金額に相当する額は、その事業年度から10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度にあっては9年間)にわたって繰り越して控除されます。
条文は「青色申告書を提出する事業年度でない事業年度」という状態を要件としており、そうなった理由については規定していません。自社が該当するかどうかは、事業年度ごとの申告の状況によって判断が分かれます。個別の事情がある場合は、必ず税理士または所轄税務署にご確認ください。
自社がどちらに当たるか、また実際にいくら控除できるかは資本金の額や他の欠損金の有無によって変わります。金額の試算は税理士にご相談ください。
繰戻し還付は、すでに納めた法人税を返してもらう制度です。条文には「1年」が2か所出てきますが、意味がまったく違います。ここは実務でも取り違えが起きやすい部分です。
- ①いつ請求できるか(請求できる事業年度の範囲)
災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度、または災害のあった日から同日以後6か月を経過する日までの間に終了する中間期間に生じた災害損失欠損金額が対象です。確定申告書、または仮決算の中間申告書の提出と同時に請求します - ②どこまで遡れるか(還付の対象になる過去の事業年度)
その災害損失欠損金額に係る事業年度または中間期間開始の日前1年(青色申告書を提出する場合には、前2年)以内に開始した事業年度の法人税額のうち、災害損失欠損金額に対応する部分の金額が還付されます
また、②の期間は「災害のあった日から」ではなく「欠損金額が生じた事業年度(中間期間)の開始の日から」遡って数えます。起点も違います。
中間期間が対象に含まれているのもポイントです。決算を待たずに仮決算の中間申告を行うことで、期の途中でも還付を請求できます。被災直後の資金繰りを考えると、この選択肢は覚えておく価値があります。
受取利息や配当から源泉徴収された所得税がある会社では、これも資金繰りの一助になります。
繰越控除は「これから先の黒字と相殺する」方法、繰戻し還付は「すでに納めた税金を返してもらう」方法です。資金繰りが厳しいときは、手元にお金が戻ってくる繰戻し還付の検討が優先になります。どちらが有利かはその後の業績見通しによるため、税理士に相談して判断してください。
水害や火災で、帳簿や請求書そのものが失われることがあります。ここで問題になるのが消費税の仕入税額控除です。消費税では、帳簿および請求書等を保存していることが控除の要件になっているためです。
この保存要件は、実務上とても厳しく運用されています。過去の裁決例では、次のような判断が示されています。
- 経営状況の悪化や廃業状態に追い込まれていたこと
- 他の証拠資料から課税仕入れに係る支払対価を合理的に推認できる場合であっても、それだけでは要件を満たさない
つまり「帳簿がないなら控除は認めない」が原則です。そのなかで、災害は数少ない例外として条文に明記されています。消費税法30条7項のただし書きです。
国税庁は東日本大震災に関するFAQのなかで、震災により課税仕入れに係る帳簿書類を消失した場合はこの「災害その他やむを得ない事情により帳簿及び請求書等を保存できなかった場合」に該当し、帳簿及び請求書等の保存がない課税仕入れについても仕入税額控除は認められるとしています。
り災証明書を確保し、被害状況の写真や、どの書類がどこに保管されていて失われたのかを記録に残しておくことが実務上の鍵になります。
控除が認められるとしても、申告書自体は作らなければなりません。国税庁は、帳簿書類を消失した場合には「可能な範囲で合理的な方法により申告書等を作成する」としています。具体的な手段は次のとおりです。
- 取引の相手先に照会する
取引内容を問い合わせて、請求書や納品書の再発行を依頼します - 金融機関に照会する
通帳や取引履歴から、入出金の記録をたどります - 税務署の申告書等閲覧サービスを使う
過去の申告書の控えを失った場合、このサービスを利用できます
申告・納付が期限に間に合わないとき、国税通則法11条により期限を延長できます。ここで多くの人が「自分の地域が対象かどうか」だけを見て諦めてしまいますが、経路は2つあります。
- 災害などの理由により、都道府県の全部または一部にわたり期限までに申告・納付ができないと認める場合
- 国税庁長官が地域および期日を指定して期限を延長する
- 指定された地域に納税地がある法人は、手続不要で指定された期日までに申告すればよい
- 地域指定がされている場合を除き、所轄の税務署長が納税者の申請により期日を指定して延長する
- つまり地域指定の対象外でも、申請という選択肢がある
- 災害などの理由がやんだ後相当の期間内に、期限内に申告できない理由を記載した書面で所轄税務署長に申請する
- 本社事務所が損害を受け、帳簿書類等の全部または一部が滅失する等、直接的な被害を受けたことにより申告等が困難な場合
- 交通手段・通信手段の遮断や停電などのライフラインの遮断により申告等が困難な場合
- 会計処理を行っていた事業所が被災し、帳簿書類の滅失や会計データの破損により決算が確定しない場合
- 工場・支店等が被災し、合理的な損害見積額の計算に相当期間を要し決算が確定しない場合
- 災害の影響により株主総会が開催できず、決算が確定しない場合
なお、地域指定による延長を受けたあとで、さらに災害その他やむを得ない理由により延長後の期限にも間に合わない場合は、申請により再延長を受けられます。いずれも「その理由のやんだ日から2か月以内」が限度です。
前のセクションで解説した「帳簿を失った場合の仕入税額控除」は、この期限延長とはまったく別の制度です。地域リストで決まるものではなく、事業者ごとの個別の事情で判断されます(消費税法30条7項ただし書き)。混同しないでください。
そのうえで、後から帳簿書類等が確認でき、正しい税額が算出できた場合には、更正の請求または修正申告により申告額を訂正します。「正確な数字が出せないから申告しない」ではなく、いったん合理的な方法で申告して後で直す、という順序です。
災害その他やむを得ない理由により被害を受けた事業者は、所轄税務署長の承認を受けることで、災害等の生じた日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受ける・やめることができます。通常は2年縛りがあるところを、災害時は動かせるという特例です。国税庁は適用例として次の2つを挙げています。
- 災害等により事務処理能力が低下したため、簡易課税制度を適用して申告する必要が生じた場合
- 災害等により棚卸資産その他の業務用資産に相当な損失を受け、緊急な設備投資等を行うため、簡易課税制度の適用をやめる必要が生じた場合
このとき申請書と併せて、消費税簡易課税制度選択(不適用)届出書も提出する必要があります。申請書だけでは足りません。期間が短いので、該当しそうな場合は早めに動いてください。
地域指定の延長が実際にどう運用されるのか、東日本大震災の経緯が参考になります。制度の説明だけでは見えない「その後」がわかる事例です。
- 平成23年3月15日付 国税庁告示
国税通則法11条・同法施行令3条1項に基づき、青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県の5県について、同月11日以降に到来する国税に関する申告・納付等の期限を延長 - その後
各地域の復興等の状況を踏まえ、順次、期限延長措置を終了 - 最後まで残った地域
福島県の田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の12市町村 - 平成26年3月31日
当該12市町村における自主的な申告・納付の状況、地元自治体の意見等を踏まえ、期限延長措置を終了
さらに、同日までに申告・納付等をすることが困難な方については、個々の事情を踏まえ、更なる期限延長を行うこととされました。
ここから読み取れることが2つあります。1つは、地域指定は災害の規模によって年単位で続きうること。震災発生が平成23年3月で、最後の12市町村の終了が平成26年3月、手続期間を含めると平成27年3月までですから、約4年にわたりました。
もう1つは、終了時にも段階的な配慮が行われていることです。「期限延長が終わった瞬間に全部まとめて申告」ではなく、手続期間が設けられ、なお困難な場合は個別に延長する運用になっていました。
ここまで「失った場合」の話をしてきましたが、失わずに済むならそれが一番です。災害時の特例は救済措置であって、証明の手間も交渉のリスクも事業者側が負うことになります。
- 会計データをクラウドに置く
事務所のPCやサーバーだけに置いていると、建物ごと被害を受けたときに同時に失われます - 紙の証憑をスキャンして保存する
電子帳簿保存法の要件を満たす形で電子化しておけば、原本を失っても対応できます - バックアップを別の場所に持つ
同じ建物内のバックアップは、災害時には意味をなさないことがあります - り災証明書の申請手順を知っておく
災害時の税務手続きの多くで、被害の証明が起点になります
災害対応の経理は、起きてから調べ始めると間に合いません。平時のうちに、自社の帳簿がどこにあるか、それが失われたらどうなるかを一度確認しておくことをおすすめします。
→ 撤去・土砂除去の費用も損金になる
→ 原状回復は修繕費。不明分は30%
→ 災害損失特別勘定で見積計上
→ ただし明細書の添付が必須
→ ただし証明責任は事業者側
→ 地域指定がなくても申請できる
災害時の税務は、平時のルールをそのまま当てはめると特例を取りこぼします。とくに修繕費の判定は、平時の金額基準とは別系統の特例が用意されている点に注意してください。
そして期限の延長は、地域指定がなくても個別指定で受けられます。「うちの地域は告示に入っていないから」と諦めず、帳簿の滅失やライフラインの遮断で申告が困難なら、所轄税務署長への申請を検討してください。
そして、帳簿を失った場合の救済は「証明できれば」という条件つきです。被害状況の写真とり災証明書は、復旧作業を始める前に確保しておいてください。
「この費用は修繕費でいいのか」「帳簿を失ったが申告をどう進めるか」——災害時の処理は判断に迷う場面が多く、しかも時間の余裕がありません。税理士事務所での実務経験をもとに、状況に合わせたご相談を承っています。
ココナラの出品サービスもありますので、そちらもご活用ください。
お金の悩みやそれにまつわる疑問や相談お受けします 説得力や信頼性が高まる知識をあなたに。本文で紹介した東日本大震災の期限延長の経緯は、国税庁「福島県下12市町村に係る国税の申告・納付等の期限延長措置の終了について」(平成26年1月31日)によるものです。同様の措置が他の災害でも行われるとは限りません。
個々の適用可否は事実関係によって判断が分かれ、また災害の規模によっては個別の立法措置や告示が行われる場合があります。実際の処理にあたっては、必ず最新の国税庁の公表情報を確認のうえ、税理士にご相談ください。

