長期金利が30年ぶり高水準
借入のある会社は何を確認するか
10年債2.930%。ただし中小企業の借入に直結するのは別の金利です
ニュースを見て「うちの借入金利も上がるのか」と気になった方が多いと思います。ここで最初に押さえておきたいのは、長期金利が上がっても、中小企業の借入金利がその日のうちに動くわけではないということです。事業融資の変動金利が参照しているのは、長期金利ではなく短期プライムレートという別の金利であることがほとんどです。
この記事では、ニュースの数字と自社の借入がどうつながっているのかを分けて整理し、経理担当者が今の段階で確認しておくべきことを実務の順番でまとめます。金利上昇そのものを止めることはできませんが、影響額を先に把握しておくことはできます。
変動金利の事業融資が参照するのは短期プライムレートです。長期金利は主に固定金利の新規借入や社債の条件に影響します
短期プライムレートは2026年8月時点で2.125%のまま
日本銀行の公表データでは、最頻値は2026年1月9日以降2.125%で変わっていません(表に掲載された最新の適用日は6月10日)
日銀の9月利上げは「観測」であって決定事項ではない
次回の金融政策決定会合は9月17日・18日です。政策金利は6月に1.0%へ引き上げられて以降、据え置かれています
今やるべきは借入条件の棚卸し
固定か変動か・参照金利は何か・見直し時期はいつかを契約書で確認します。ここが分からないと影響額を計算できません
まず、報道されている数字を整理します。
新発5年物国債の流通利回りも一時2.170%となり、こちらは過去最高を記録しています。
上昇の要因として報じられているのは、日銀の早期利上げ観測です。市場では利上げが9月にも実施され、その後の引き上げペースも加速するとの見方が広がったとされています。あわせて、中東情勢の先行き不透明感から原油相場や米国の長期金利が上昇基調にあることも、日本国債が売られる(=利回りが上がる)一因と説明されています。
ここで「利回りが上がる」と「国債が売られる」が同じ意味である点だけ補足します。国債は満期に受け取る金額が決まっているため、市場での価格が下がるほど、買った人から見た利回りは上がります。金利上昇のニュースは、裏側では国債価格の下落を意味しています。
政策金利/日本銀行が金融政策として誘導する金利です。2026年6月の金融政策決定会合で1.0%程度に引き上げられました
短期プライムレート/銀行が優良企業向けに1年以内の期間で貸し出す際の最優遇金利です。中小企業の変動金利借入は、これに一定の上乗せをした水準で設定されることが多いです
この3つは連動しますが、動くタイミングがそれぞれ違います。次の見出しで、そこを分けて見ます。
「長期金利が2.930%になった」と聞くと、借入金利も同じだけ上がると受け取ってしまいがちですが、中小企業の借入で最も多い変動金利の事業融資は、長期金利には連動していません。
変動金利の事業融資が参照しているのは、多くの場合短期プライムレートです。そして短期プライムレートは、日銀の公表データによれば次のように推移しています。
なお、短期プライムレートの改定は各銀行が個別に判断するものです。上記は主要行の最頻値であり、取引先の銀行が独自に改定している可能性があります。自社の適用金利は必ず取引金融機関にご確認ください。
つまり長期金利が30年ぶりの水準まで上がった一方で、変動金利の事業融資が参照する金利は今のところ動いていないということになります。
この差が生まれる理由は、それぞれが見ているものが違うからです。長期金利は10年先までの経済や物価の見通しを織り込んで市場で日々動きます。一方の短期プライムレートは日銀の政策金利の動きを受けて、各銀行が判断して改定するものです。
そのため、今回の長期金利上昇が自社の借入に効いてくるとすれば、それは「日銀が実際に利上げをして、銀行が短期プライムレートを引き上げたとき」ということになります。市場が織り込んでいる段階では、まだ変動金利には届きません。
- 誤解1長期金利が2.930%なので、うちの借入金利も2.930%になる
→ 参照している金利が違います。変動金利の事業融資は短期プライムレート連動が中心です - 誤解2ニュースが出た時点で、来月の返済額から上がる
→ 変動金利には契約で定めた見直し時期があります。金利改定が即座に反映されるとは限りません - 誤解3固定金利で借りているので、今回の話は完全に無関係
→ 既存の借入は影響を受けませんが、借換えや新規の設備投資を予定しているなら条件は変わります
なお、日銀の9月利上げはあくまで市場の観測であり、決定した事実ではありません。次回の金融政策決定会合は2026年9月17日・18日に予定されています。政策金利は6月の会合で0.75%程度から1.0%程度へ引き上げられて以降、7月の会合では据え置かれています。
金利上昇のニュースが出たときに経理ができる最初の一手は、自社の借入がどういう条件になっているかを一覧にすることです。ここが分からないと、影響が大きいのか小さいのかも判断できません。
- 確認1固定金利か変動金利か/変動なら今後の影響を受けます。固定なら完済まで金利は変わりません
- 確認2変動の場合、何に連動しているか/短期プライムレート連動か、その他の指標かを契約書で確認します
- 確認3上乗せ幅(スプレッド)は何%か/「短プラ+1.0%」のような形で決まっています
- 確認4金利の見直し時期はいつか/年2回・毎年◯月など、契約で定められています
- 確認5残高と残りの返済期間/残高が大きく期間が長いほど、金利上昇の影響額は大きくなります
- 確認6保証協会の保証付きか、プロパー融資か/保証料の負担も含めた実質的なコストを見ます
この6項目を借入ごとに並べると、「金利が0.25%上がったら、年間いくら増えるのか」が計算できるようになります。目安としては、残高1,000万円につき金利0.25%の上昇で年間2万5,000円程度の支払利息増となります(残高が一定と仮定した単純計算)。
返済が進んで残高が減っていく借入では、実際の増加額はこれより小さくなります。正確な金額を出したい場合は、返済予定表の残高推移を使って計算してください。
役員借入金/金融機関からの借入ではありませんが、利率を設定している場合は税務上の論点になることがあります
リース・割賦/契約上は借入ではありませんが、新規契約の条件には金利水準が反映されます
→ 金利シミュレーターで試算する(無料)
金利が上がって支払利息が増えても、仕訳の形そのものは変わりません。借入金の返済時に、元本部分と利息部分を分けて処理する点は同じです。
・長期借入金(または短期借入金)/元本の返済部分
・支払利息/利息の部分
貸方
・普通預金/実際に引き落とされた合計額
元本と利息の内訳は返済予定表で確認します。引落額の合計だけを見て全額を借入金の返済として処理すると、支払利息が計上されず、借入金残高も合わなくなります。
ここで注意したいのが、金利が上がると同じ返済額でも元本の減りが遅くなるケースです。元利均等返済では毎月の返済額が一定のため、金利が上がった分だけ利息の割合が増え、元本充当額が減ります。「返済額は変わっていないから前と同じ仕訳でよい」と考えると、内訳がずれたまま処理が続きます。
- ミス1前月の仕訳をコピーして元本・利息の内訳をそのまま使う
→ 改定後の返済予定表で内訳を確認してください - ミス2金利改定の通知を経理が受け取っていない
→ 銀行からの通知が代表者止まりになっていないか確認します - ミス3決算時の未払利息を計上していない
→ 期末までに発生した未払分がある場合は、期間対応で計上します
なお、支払利息は消費税の非課税仕入です。会計ソフトの初期設定で課税仕入になっていないか、一度確認しておくと安心です。
金利上昇の影響を考えるとき、支払利息の増加額だけを見ていると本質を外します。残高3,000万円の借入で金利が0.25%上がっても、年間の利息増は7万5,000円程度です。多くの会社にとって、これ単独で資金繰りが行き詰まる規模ではありません。
実務で効いてくるのは、むしろ次の2つです。
すでに借りている分より、これから借りる分の条件が変わります。設備投資や運転資金の調達を予定しているなら、資金計画の前提を見直す必要があります
2. 取引先の資金繰りが厳しくなる
金利上昇は自社だけでなく取引先にも同時に効きます。借入依存度が高い取引先ほど影響を受けやすく、売掛金の回収サイトや与信の見直しが必要になる場合があります
とくに2つ目は見落とされがちです。自社の財務が健全でも、売掛先が資金繰りに詰まれば回収は滞ります。金利が上がる局面では、取引先の状況にも目を配っておくことが実質的なリスク管理になります。
とくに2つ目については、取引先の異変にどう気づくか、実際に回収できなくなったとき何ができるかを別記事で整理しています。
実際の破産事例をもとに、決算書のどこに兆候が出るかを解説しています
→ 貸倒損失として処理できる要件
回収不能になった売掛金を損金にできる条件は、税務上かなり厳しく定められています
→ 資金繰り支援制度と、巻き込まれたときの初動
取引先の倒産に巻き込まれた場合に使える公的支援の入口をまとめています
- 借入一覧を作り、変動金利の残高合計を把握する
- 金利が0.25%・0.5%上がった場合の年間利息増を試算しておく
- 今後1年以内の資金調達予定を洗い出し、前倒しの可否を検討する
- 主要取引先の回収サイトと売掛金残高を確認する
取引先の決算書から、危険な兆候が出ていないかを確認できます
→ 公的融資チェッカー(無料)
自社が使える公的融資制度の候補を絞り込めます
金利上昇は単独で起きているわけではありません。今回の上昇要因として原油相場や円安による物価上昇が挙げられているとおり、コスト増は同時多発的に効いてきます。
経理の立場で今後の見通しを立てるなら、金利と並行して次のものも織り込んでおくと精度が上がります。
仕入価格・原材料費/原油相場の上昇は、輸送費や包装資材を通じて幅広い費目に波及します
人件費/賃上げの流れが続く中で、固定費の水準そのものが上がっています
また、コスト増が売上ではなく利益を圧迫する構造になると、業種によっては経営が急速に厳しくなります。それぞれの負担については、別記事で詳しく整理しています。
自社が翌月控除か当月控除かで、影響が出る月が1か月ずれます
→ 原油高騰と資金繰りへの影響
仕入価格の上昇を価格転嫁につなげる考え方を整理しています
→ 飲食業の倒産が増えている理由
コスト増が利益を圧迫する構造を、実際の倒産統計から分析しています
ニュースの数字に反応して慌てるのではなく、自社の借入一覧を作るところから始めてください。これは金利がどう動いても無駄になりません。
→ 約30年ぶりの高水準
→ 長期金利とは直結しない
→ 2026年1月以降動いていない
→ 会合は9月17日・18日
→ 固定か変動か・見直し時期
→ 利息増より影響が大きい
金利が動く局面では、借入条件の読み方や資金計画の前提を一度整理しておくと、その後の判断がぶれにくくなります。自社だけで抱え込まず、第三者に見てもらうと論点がはっきりすることがあります。
ココナラで経理・税務の相談をする税理士事務所での実務経験をもとに、経理まわりのご相談をお受けしています。
日銀の追加利上げに関する記述は市場の観測を紹介したものであり、金融政策の決定を予測または保証するものではありません。個別の借入条件・金利改定の時期については、必ず契約書および取引金融機関へご確認ください。融資や資金調達に関する個別の判断は、取引金融機関または顧問税理士へご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。
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